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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

米国 PFAS類削減と教育に関するモデル法案草案

2023年06月30日更新

米国北東部廃棄物管理担当者協会(Northeast Waste Management Officials' Association, Inc.:NEWMOA)は、2023年5月2日に「PFAS類削減と教育に関するモデル法案」草案(本案)*1)を公表し、2023年6月29日までパブリックコメントを募集しています。*2)


背景としては、米国ではこの1年間に各州からPFAS類を含有する消費者向け製品の規制法(州法)が個別に次々と制定されていることがあります。


例えば、

2022年4月(署名):メリーランド州(MD)PFAS類含有特定製品製造販売禁止規則 *3)

2022年9月(署名):カリフォルニア州(CA)繊維製品中のPFAS類含有禁止規則 *4)

2022年12月(署名):ニューヨーク州(NY)衣類・カーペット類へのPFAS類含有・使用禁止規則 *5)

2023年5月(署名):ミネソタ州特定製品におけるPFAS類含有禁止規則 *6)


この他にも、すでにメイン州(ME) *7)、ワシントン州(WA) *8)、及びコロラド州(CO)*9) などでも消費者向けPFAS類含有製品の販売規制や報告義務などを規定する州法が公布され、一部は既に発効しています。


このような状況で、企業側からは州ごとに異なる対応を求められることになるという問題がありました。


今回のNEWMOAの本案の提示は、EUの指令やオーストラリアの連邦モデル法案のように各州の事情を考慮しながら基本的な規制内容は統一していこうという民間の試みであり、たいへん意義のある事であり、以下に概略を説明します。


1.NEWMOAとは

NEWMOAは、非営利、超党派の州間協会であり、その会員は、汚染防止、有毒物質使用の削減、持続可能性、材料管理、有害廃棄物、固形廃棄物、緊急対応、廃棄物処理場の清掃、及び地下貯蔵タンクとそれに関連する環境問題を扱っているコネチカット州、メイン州(ME)、マサチューセッツ州(MA)、ニューハンプシャー州(NH)、ニュージャージー州(NJ)、ニューヨーク州(NY)、ロードアイランド州(RI)、バーモント州(VT)における規制当局の職員です。NEWMOAはまた、国家的に重要な問題やプログラムについて非加盟州とも協力して取り組んでいます。


本案は、このようなNEWMOAの性格から、国や州の公式見解ではなくNEWMOAが参加している会員(各州の環境保護局、環境保全局、環境管理局職員)によるワークグループで作成したものです。


2.本案の構成と目的

本案の目的は、以下の6項目とされています。

①消費者製品に含まれるPFAS類を可能な限り排除/削減する。

②排出源削減プログラムを特定し、実施する。

③製品に含まれるPFAS類の代替品がより安全で、不適切なものでないことを確認する。

④製品の開示、表示、禁止、段階的廃止、供給源削減、使用済製品の回収を複数の州で調整する。

⑤消費者がPFAS類を含む製品を特定し、その適切な取扱い方法を学ぶことを支援する。

⑥規制対象事業者に、規制の確実性を提供する。


本案の構成は、18条(section)からなる本文で構成されています。

各条のタイトルは次のようになっています。

第1条:PFASの削減と教育に関する法律(An Act Concerning PFAS Reduction and Education)

第2条: 州議会の認識と宣言(The legislature finds and declares)

第3条:定義(Definitions)

第4条:州をまたぐ情報センター(Interjurisdiction Clearinghouse)

第5条:申告義務(Notification)

第6条:特定のPFAS含有製品の販売制限(Restrictions on the Sale of Certain PFAS-added Products)

第7条:適合証明書(Certificate of Compliance)

第8条:PFAS含有製品の表示(Labeling of PFAS-Added Products)

第9条:PFAS含有製品の生産者責任(PFAS containing products; producer responsibility)

第10条:PFAS非含有製品の調達優遇措置(Jurisdiction Procurement Preferences for Non-PFAS-Added Products)

第11条:法制化(Rulemaking)

第12条:施行及び罰則(Enforcement & Penalties)

第13条:公告及びレビュー(Public Notification and Review)

第14条:効果の検証(Jurisdiction Review)

第15条:適用除外条項(Severability Clause)

第16条:発効日(Effective Date)

第17条:管理費用規程(Administrative Fees and Regulations)

第18条:経費計上規程(Appropriations)

この条項の中で、第1条、第11条~第13条、第15条~第18条は、各州の事情により内容を追加削除できるようになっています。 また、第10条の優遇率も各州の裁量で決めるようになっています。


なお、本案の採用にあたってすべての条項を同時に適用することは期待されていません。


2.内容の詳細

本案では、第1条で法律の名称を定義しているが、PFAS類削減のみならず消費者に対する教育を確立することもめざしているところが特徴です。


第4条では、州の監督機関に、提出された製造者からの通知、段階的免除申請、廃棄物の収集システム計画、代替表示/通知システム申請、教育及び普及活動などの情報収集とレビュー機能を持たせることにより本法律の要件の遂行を支援させること、及び、州をまたぐ情報センターに各州監督機関に提出された上記情報を提出させてデータベースを構築し、その分析と要約を公表する権限を持たせることが規定されています。。


第5条では、本法発効2年後から、PFAS類を意図的に含有する製品の製造者は、監督機関に事前通知が必要となり、通知に記載するべき項目が示されています。 通知がない場合にはPFAS類を意図的に含有する製品を、州内で販売、販売申し出、販売のための流通をすることができません。


第6条では、本法発効から3年以内にPFAS類を意図的に含有する製品は原則として販売と流通が禁止となります。 監督機関が「やむをえない使用」(unavoidable use)と認めた場合には製造者の申請により最大5年間の免除を受けられます。 免除の更新も同様の手続きにより2年以内で認められます。


第7条では、製品の製造者又は供給者は監督機関の要求により、製品が本法の要件に適合していることを証明する適合証明書を提出する必要があります。 第6条の免責事項に準拠する場合には、免責の具体的根拠を記した準拠証明書を提出する必要があります。


適合証明書及び準拠証明書は、自社のホームページ又は州をまたぐ情報センターから入手できるようにする必要があります。


第8条は、PFAS含有製品の表示義務を規定しています。 ラベルは販売前にはっきりと見えるように、監督機関が承認した文言と記号で、製品の耐用年数の間判読可能な材料で添付する必要があります。


ラベルには、PFASが含有されていること、及び製品が第9条で規定された生産者責任プログラムにしたがってリサイクルされるべきであることを購入者に伝える必要があります。

表示義務は製造者にありますが、製造者と合意した場合には卸売業者又は小売業者が、外国で製造されたものに関しては輸入業者又は国内販売業者の義務となります。


製造者は、要件への厳格な準拠が実行不可能である場合、または提案された代替案がPFAS含有量の販売前通知および適切な廃棄に関する指示の提供において少なくとも同程度に効果的である場合、または連邦法が管轄権を先取りする形でラベリングに適用される場合、本項の要件の代替案を監督機関に申請することができます。


第9条では、PFAS含有製品の生産者責任を規定しています。

この法律の採択から3年以内に、PFASの「やむをえない使用」と判断されたいかなる製品も、製造者が単独で、または他の者と協力して、消費者がその製品を使い終わったときに便利で利用しやすい回収システムの計画を提出し、監督機関の承認を受けない限り、最終的な販売、使用、または販売促進目的の配布のために提供できません。 PFAS添加製品が他の製品の部品である場合、回収システムは、PFAS添加成分の除去および回収、またはPFAS添加成分とそれを含む製品の両方の回収方法を提供しなければなりません。


回収システム計画には、以下が要求されています。

①収集システムの目的と参加方法について一般に知らせるための公教育プログラム

②PFAS含有製品又は部品の目標回収率

③収集システムの実施計画と資金計画

④収集システム関係者全員の同意書

⑤収集システムが、捕捉率目標及びプログラムの有効性に関するその他の指標を満たしていることを実証するために、製造事業者が報告する実績指標の説明

⑥補足率目標未達の場合の追加又は代替措置の説明

なお、回収システム計画の進捗報告は2年ごとに行う必要があります。


また、家庭、有害廃棄物発生業者、地方および地域の固形廃棄物管理機関、中小企業、医療施設、金属くず施設、解体業者、施設、学校、およびその他の関係団体を対象とした、他の関連管轄機関と連携した包括的な公共教育、支援活動、および支援プログラムを提供する必要があります。 監督機関は、公教育および技術支援プログラムの開発および実施において、PFAS添加製品の製造業者およびその他の影響を受ける企業と協力しなければなりません。


これらの費用はすべて製造者の負担で、消費者に直接手数料などを請求することはできません。


第10条では、PFAS非含有製品の優遇調達措置を規定しています。

監督機関の調達管理者は、代替品がない場合を除き、PFAS添加化合物または成分を含まない機器、供給品、およびその他の製品の購入を優先し、価格優先権(一定割合のプレミアム付加)を与えることが規定されています。


3.まとめ

本案は、先行するメイン州(ME)などの州法をベースに作成されています。 その他にも第4条の州をまたぐ情報センターに関しては19州で法制化されている包装中の有害物質情報センター(TPCH)をモデルとし、第5条の通知に関しては水銀削減法(CT、LA、ME、MA、NH、NY、RI、VT)を参考に、第8条の表示に関しては水銀表示法(CT、LA、ME、MA、MN、NH、RI、VT)を参考に作成されたことが記されています。 最大の特徴である第9条の生産者責任は、いわゆる拡大生産者責任(Extended Producers Responsibility)をモデルに作成されています。


このように、既に実績があり成功している州間法規の標準化をベースにしていることから、参加州のみならず他州にも展開される可能性があり、さらには国際的にもデファクトになる可能性があり、今後の動向を注視していきたいと思います。


(杉浦 順)



参考文献:

*1) 「PFAS類削減と教育に関するモデル法案」草案


*2) パブリックコメント募集


*3) メリーランド州(MD)PFAS類含有特定製品製造販売禁止規則


*4) 「カリフォルニア州(CA)繊維製品中のPFAS類含有禁止規則


*5) ニューヨーク州(NY)衣類・カーペット類へのPFAS類含有・使用禁止規則


*6) ミネソタ州特定製品におけるPFAS類含有禁止規則


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