2023年10月06日更新
はじめに
EUで制定施行されているREACH規則(Regulation (EC) 1907/2006、以下同規則)1) は、EUの産業競争力の強化との両立を図りつつ、様々な有害性を有する化学物質から人の健康や環境をより高いレベルで保護するために、それらのリスクベースでの管理を目的とした法令です。
認可(authorisation)はその中で規定されている重要な仕組みの1つです。 最近、欧州化学品庁(ECHA)よりそれに関連する幾つかの報告書や情報が公開されていますので、本稿では認可とその現在の状況について概説します。
1. 認可の概要
認可とは、同規則第VII編第55~66条の定めによる、人の健康や環境に対する重度な有害性を有する物質を指定し、基本的にその使用を禁止しようとする仕組みです。
その対象物質は同規則第59条の手続きにより認可対象候補物質(Candidate List Substance:CLS)に指定されたものの中から、同規則第58条の手続きによって指定を受け、附属書XIVに収載されます。2023年9月時点では、No.59までの物質または物質群がエントリーされています。
これらの物質は認可対象に指定されると同時に日没日(sunset date)が定められ、その日以降はEU域内でのそれらの上市および使用は禁止されます。
認可はそれに対する特例を認める仕組みです。 認可対象物質は、用途によっては日没日までに使用を停止できず、継続する必要のある場合、EU域内のそれらの製造者、輸入者および川下使用者は、その日没日の18カ月前までにECHAに対し、その用途を指定して認可の申請をする必要があります。
受理された申請は審査を受けますが、認可の付与される条件については、同規則第60条の第2項および第4項に以下の様に示されています:
(i) その物質による人の健康や環境へ与えるリスクが適切に管理されていること。
(ii) (i)が満足されない場合は、その物質の使用による社会経済的便益が上記リスクを上回ることが示され、かつ適切な代替策が無いこと。
認可附与の可否は欧州委員会(European Commission:EC)により決定されます。申請者はその決定までは継続して認可対象物質の使用あるいは上市が認められます。
2. 認可申請における代替策分析および代替計画と申請受理後の動き
認可の申請に関する具体的詳細は、2021年1月ECHAよりそのガイダンス(Guidance on the preparation of an application for authorization)が公表されています。2)
認可は附与されたとしてもそれをいつまでも使用できる訳ではなく、附与時にその見直し(レビュー)期限が定められます。 その期限は様々な関連情報を考慮の上、ケースバイケースで決定されます。(同規則第60条第8項) 附与された認可は、申請者がその期限の18カ月前までにレビュー報告書を提出することを前提に、ECがレビューにおいてその認可を取り消す、あるいは修正する決定を下すまでは有効です。(同規則第61条第1項)
このため申請者は、申請時にその認可対象物質の代替策を検討し、その内容を提示することが必要です。 同規則第62条第4項では申請時に提出すべき情報を規定していますが、そこでは以下の2点を含めることを要求しています:
(1) 代替策分析(Analysis of Alternatives:AoA):認可対象物質の代替策とは、代替物質の他、プロセス、装置、最終製品に対する変更等の技術、或いはそれらの組合せを含みます。
代替策については、(i) それに起因するリスク、(ii) 技術的可能性、および(iii) 経済的可能性の各要素を考慮せねばなりません。 このためにはサプライチェーン内外から包括的かつ十分な情報収集が重要です。
また特にその時点で適切な代替策の見通しの無い場合には、関連する研究開発の状況に関する情報を織り込むことが必要で、これはレビュー期限の決定に大きく影響します。
(2) 代替計画(Substitution Plan):上記代替策分析において適切な代替策が利用可能なことが示せた場合には、代替計画を提出します。 これには代替物質あるいは代替技術への移行に必要な措置とタイムスケジュールを示す必要があります。
ECHAは認可申請書を受理後、コンサルテーション期間を設け、その申請された用途に関する情報をウエブサイト上に公表し、利害関係者に代替物質あるいは代替技術に関する情報の提供を求めます。 申請者はこの間、寄せられたコメントに対して回答する機会を与えられます。
一方、ECHAのリスク評価委員会(Risc Assessment Committee:RAC)および社会経済分析委員会(Committee for Socio-economic Analysis:SEAC)も各々意見書を作成していきます。
ECはこうした過程を踏まえ、両委員会の意見書の内容を重視しつつ、認可附与の可否を決定します。
なお認可を受けようとする物質が既存の制限(restriction)の対象となっており、認可がその制限の緩和となる様な場合には附与されません。(同規則第60条第6項)
認可を附与された申請者は、申請時に提出した化学物質安全性報告書(Chemical Safety Report:CSR、その認可対象物質の使用に伴う人の健康や環境に与える影響を示した書類。 なお当物質の登録に際し、年間の製造・輸入量が10トン以上であればCSRの提出義務があるが、その場合には、改めて認可申請時での提出は不要。)に記載された条件に従った対応をせねばならず、また引き続きより安全な代替策を見出すべく努めねばなりません。
なお以上の各申請に対するコンサルテーションやレビューにおいて提出された書類や意見等の関連情報は、ECHAのサイト内で公開されています。3)
また本年8月には認可申請に伴うコンサルテーション毎に、AoA等申請関連情報へのリンク先、申請者、申請用途、特に有望な代替物質、可能性のある代替物質等についてリスト化されたものが公表されており、認可対象物質の代替状況の把握ができます。4)
3. 最近の認可対象物質の状況
2022年10月、ECHAは2010~2021年における認可対象物質の市場規模の変化に関する報告書(Changes of market volumes of chemicals subjected to authorization in 2010-21)を公表しました。 5)
これによれば以下の様な状況が報告されています:
(1) 認可対象物質のEU域内への合計上市量は、2010年以降、約600キロトンまたは45%、日没日以降では約170キロトンまたは20%削減されている。 これは年間削減率では2010年以降4%、日没日以降14%と推定され、日没日以降、代替または使用中止が加速したことを示している。
(2) 認可対象59物質のうち25物質については申請が受理されておらず、代替技術への転換がなされる等、EU域内では使用されていないと考えられる。
(3) 特に上市量の大きな削減を達成した物質として、5種のフタル酸エステル(主にDEHP)では90%、トリクロルエチレンでは95%となっている。
一方、本年4月に公表された2022年のECHAの年次報告書(Annual Report 2022) 6) によれば、その年にECHAは65用途に対する49件の認可申請、および1用途に対するレビュー報告書を受理しています。 当年中にはECHAの委員会は、認可申請に対して33件、レビュー報告書に対して3件の意見を各々採択しています。
しかし当年中には更に28用途に対する26件の認可申請、および4用途に対する4件のレビュー報告書を受理していますが、これらに対する意見の取りまとめが追いつかず、翌2023年に着手することになるであろうとしています。
なお特に申請件数が増加しているのはメッキ用途の6価クロムで、2023年もこの傾向は継続すると見ています。
こうした認可のプロセスの効率性向上はかねてより指摘されている課題です。
おわりに
以上の様に、REACH規則の施行以来、認可は有害性の高い物質のEU域内での使用を着実に削減してきており、現時点では有効な代替策が実現困難なものもありますが、その狙いは概ね達成してきたと言えます。
日本の企業は認可を申請することはできませんが、EU側の輸入者に附与されている認可に基づいて対象物質を輸出する場合があります。 しかし前記した様に、認可はいつまでも有効なものではなく、中長期的には対象物質の使用を廃止していくことを目指したものであること、また今後も引き続き新たに認可対象に指定されていく物質はあることから、輸出者側にとってもその事業への影響はありますので、これらの動向には注意が必要です。
参考URL
1) consolidated text
5) https://echa.europa.eu/documents/10162/2082415/change_of_tonnage_of_axiv_substances_2010_21_en.pdf
以上
(福井 徹)
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