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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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欧州委員会が欧州化学品庁(ECHA)へ六価クロム制限案の作成を要請

2023年11月03日更新

欧州委員会は2023年9月27日に六価クロムに関する制限案を作成するよう欧州化学品庁(ECHA)に要請しました(*1)。現状、六価クロム物質である三酸化クロム(エントリー16)およびクロム酸(エントリー17)は、REACH規則において認可対象物質として規制されています。 今回、欧州委員会はこの2つの物質について、最終的に認可対象物質のリストから削除し、制限による規制を目指すとしています。 この動きはREACH規則において初の試みとされ注目されるところです。本稿ではこの六価クロムにおける制限案作成の動きについて取り上げてみます。


◆六価クロム制限案作成の背景

対象物質がREACH規則において認可対象物質に指定され附属書ⅩⅣに収載された場合、原則としてその物質の使用は禁止となります。 ただし、用途などにより使用を継続する必要性がある場合、EUの製造者、輸入者などは認可申請を提出することができます。 認可申請は審査を経て申請内容が妥当であると判断されれば、その用途について使用が認められることになります。 認可申請の審査は、申請内容についてリスク評価委員会(RAC)および社会経済分析委員会(SEAC)が行います。 三酸化クロム、クロム酸については、この認可申請の件数が想定以上に多数となり、RACやSEACへ多大な負担がかかっているとされています。 この状況は他の物質を含めた審査が遅延しがちになることにつながり、認可プロセスにおける効率性向上に対する課題とされていました。


六価クロム物質に関する制限案作成はこのような課題に対する解決策の一つとして位置づけられています。


◆REACH規則に基づく欧州委員会の六価クロム物質のリスク管理に関するQ&A(*2)

先述の通り、認可対象物質のリストから削除し、制限による規制を目指す動きはREACH規則において初の試みであり、利害関係者にとっても不確実性が高く混乱することも想定されます。 ECHAはこうした状況に対処するために予想される問い合わせに対するQ&Aを作成し公開しました。以下に利害関係者にとり関心が高いと思われる項目についてみていきます。


導入スケジュールについて

三酸化クロム、クロム酸への制限は2023年10月11日に意向登録簿に公表され、ECHAは制限に関する書類作成に1年の猶予が与えられます。 作成された書類は適合性がチェックされ、RACが9か月、SEACは12か月で最終意見を取りまとめていくことになります。 その後はREACH委員会の意見後、欧州議会と欧州理事会は3か月の精査期間を経て、最終的に欧州委員会が制限を採択するという流れとなります。 欧州委員会は、順調に進んだ場合、約3年以内に制限が採用される可能性があると予想しています。


制限の範囲について

現状における欧州委員会の要請は、三酸化クロムとクロム酸の制限です。 ただし、検討段階で他の六価クロム物質が「残念な代替品」として使用される可能性がある場合、それらに対して対象範囲を拡大することはあり得るとしています。


現時点で認可を受けている内容について

社会経済的便益や代替手段の利用可能性、リスク管理措置の適切性などについて、分析を行った後、制限に対する適用除外などを検討していきます。 また、用途に応じて異なる移行期間が設定される可能性があるとしています。


認可申請済みで未判断の内容について

現在の規制の枠組み(認可)は、関連する物質が認可対象物質としてリストされている限り存続します。 提出された申請は引き続きRACとSEAC によって評価され、それらの申請について意見が出されることになります。 欧州委員会は引き続き、REACH委員会において決定書草案を作成して加盟国に提示し、認可申請に関する決定書を採択します。


法規制の実施方法について

検討の結果、三酸化クロム、クロム酸について制限による規制が選択される場合、認可による規制と制限による規制の期間を重複させないため、2つの法律を同時に採択することになります。 つまり、対象物質を附属書 XIVから削除する修正と制限を導入するための附属書 XVIIに関する修正を同時に実施することになります。


◆最後に

今回、欧州委員会は、認可対象物質となっている物質を制限による規制へ転換するという新たな試みを提案しました。 クロム物質には酸化数の異なる六価クロムと三価クロム、ゼロ価クロム物質があり、有害性という観点で見た場合、六価クロム物質が発がん性などの人体への有害性を有するのに対し、三価クロム物質は人体にとり栄養上必要な微量ミネラル成分とされ、ゼロ価クロムもめっき面などの金属クロムとして有害性が低いとされています。 一方で、工業用途という観点でみた場合、例えばクロムめっきにおいては、三価クロム物質と比較して六価クロム物質を用いたほうが効率的にゼロ価の金属クロム層を形成できることが知られています。 こうした有害性と工業用途における性質の違いが六価クロムの認可対象物質の指定に対し、想定外の認可申請数につながった一因となったものと推察されます。


企業の関係者におかれましては、三酸化クロム、クロム酸に関する制限の進展状況をみていくとともに、このような流れが他の物質へも波及していくのか注視しておく必要があるように思います。


(*1) ECHAが六価クロム物質に対する制限案を作成へ


(*2) REACH規則に基づく欧州委員会の六価クロム物質のリスク管理に関するQ&A


(長野 知広)


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