2024年05月31日更新
EU委員会は2023 年 9 月 27日にECHAに、認可リスト (附属書 XIV) のエントリー 16(Chromium trioxide 三酸化クロム CAS RN ® 1333-82-0)および 17(Acids generated from chromium trioxide and their oligomers 三酸化クロムおよびそのオリゴマー(比較的少数のモノマーが結合した重合体)から生成される酸)に含まれる六価クロム物質(クロム(VI))の制限提案のための附属書 XVによる一式文書を2024年10月4日までに提出することを要請(*1)しました。
ECHAはこの要請の要旨を2023年10月11日にホームページで公表(*2)しました。
2024年4月29日に、EU委員会は2023年3月のECHAの予備調査の通知を受けて、REACH 制限提案の範囲を以下の 10種類 のクロム (VI) 物質を対象とするように修正要請(*3)をしました。 この拡大で、12種類が制限対象となります。
ECHAはこの要請内容を2024年5月8日にHPで修正内容を公表(*4)しました。
附属書XIV(認可対象物質)9物質 ()内CAS RN ®
18: 二クロム酸ナトリウム(10588-01-9, 7789-12-0)
19: 二クロム酸カリウム(7778-50-9)
20: 二クロム酸アンモニウム(7789-09-5)
21: 二クロム酸カリウム(7789-00-6)
22: クロム酸ナトリウム(7775-11-3)
28: 三クロム酸ジクロム(24613-89-6)
29: クロム酸ストロンチウム(7789-06-2)
30: ハイドロキシオクタオキソジンク酸ジクロム酸カリウム(11103-86-9)
31: クロム酸ペンタジンクオクタヒドロキシド(49663-84-5)
附属書XIVに収載されていない1物質
クロム酸バリウム(10294-40-3)
この広い対象物質範囲を考慮して、ECHAの制限提案は当初予定されていた2024年10月4日から2025年4月11日まで延長されました。
ECHAは、「EU委員会がこの制限を採用すると、対象となる物質は認可リストから削除される。これは、REACH の歴史の中でこのような措置が行われるのは初めてとなる。」と述べており、企業にとっても規制内容が注目されます。
認可対象物質が制限物質に変更される経緯を整理してみました。
I.発端
認可物質から制限物質へ変更される対象の認可は、2020年12月18日のEU委員会決定(*5)に関するものです。
この決定の要約も告示されていますが、35保有者(認可番号 REACH/20/18/0~REACH/20/18/34)に認可が与えられました。
用途は、6通りとなっています。
•用途1:混合物の調合における使用
•用途2:機能性クロムめっきにおける使用
•用途3:装飾的な特性を持つ機能性クロムめっきにおける使用
•用途4:航空宇宙産業における応用のための表面処理(機能性クロムめっきや装飾的な特性を持つ機能性クロムめっきとは無関係)
•用途5:表面処理(錫メッキ鋼の不活性化(電気錫めっき - ETP)を除く)で、建築、自動車、金属製造・仕上げ、一般工学など、様々な産業分野における応用(機能性クロムめっきや装飾的な特性を持つ機能性クロムめっきとは無関係)
•用途6:錫メッキ鋼(ETP)の不活性化における使用
この決定の審査期間の終了日(Date of expiry of review period)(*6)は、2024年9月21日です。
II.EU議会の提訴
EU委員会の認可の決定に対してEU議会が2021年3月5日に司法裁判所に提訴(Case C-144/21)(*7)しました。
議会の主張は、REACH/20/18/0からREACH/20/18/27について、用途 2、4、および 5 (および用途 2、4、および 5 の混合物の配合に関連する用途 1)の認可の決定を無効とするものです。
III.判決
2023 年 4 月 20 日に裁判所の(第4法廷)から判決(*8)が出されました。
EU委員会決定C(2020) 8797の三酸化クロム酸の特定の使用に対して部分的に許可を与えた用途2、4及び5、並びに用途2、4及び5の混合物の配合に関連する用途1を無効とする。
IV.論点整理
判決を受けて、用途2、4及び5の使用許可、並びに用途2及び用途5の使用のための混合物の調合に関連する用途1が無効となりました。
このため、この用途に関して「制限」(附属書XVII)とするEU委員会の2023 年 9 月 27日のECHAへの要請となりました。
2023年3月のECHAの予備調査では、以下の状況が記載されています。
・REACH規則附属書XIVに記載されているいくつかの他の六価クロム物質の使用は広範にわたり、サプライチェーン上の事業者によって提出された大量の認可申請、および/または個々の下流ユーザーによる認可申請のいずれかが生じている。
・これらの使用のいくつかは、現在の三酸化クロム及びクロム酸の使用と重複している。
・これは、六価クロムの制限の範囲が三酸化クロムおよびクロム酸に限定される場合、事業者が認可制度に残る物質を使用することで制限を避けられることを意味する。
・また、制限物質に対する対応として「残念な代替」も懸念さる。
この予備調査を受けて、2024年4月29日のEU委員会の制限物質を拡大する要請がECHAに出されたものです。
ECHAは2025年4月11日までに制限案を附属書XVで提出することになっています。
認可から制限への初めての事例で、特に「機能めっき」が対象となっており、どのような制限になるかが気になるところです。
川下企業がサプライチェーン管理の一環で、REACH規則が直接適用されないEU域外企業に製造工程での三酸化クロム及びクロム酸の不使用証明を要求し、川中企業が混乱するのではないかと危惧されます。
(文中の日本語訳は、機械翻訳による部分的な意訳です。解釈にあたっては原文をご確認ください。)
(松浦 徹也)
引用
*1:EU委員会からECHAへの要請
*2:2023年10月11日のECHAの公表
*3:EU委員会の修正要請
*4:ECHAの修正内容の公表
*5:2020年12月18日のEU委員会決定
*6:審査期間の終了日
*7:Case C-144/21
*8:判決
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