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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

米国:Safer Choiceより安全な化学成分について

2025年09月05日更新

2025年7月21日にEPA(米国環境保護庁)は「より安全な化学成分リスト(SCIL)(*1)」へ18物質を追加しました(*2)。この追加は、EPAが推進している汚染防止(EPA Pollution Prevention:P2)(*3) の中の一つである「Safer Choiceプログラム」の一環として、消費者製品の安全性を高めるための継続的な取り組みを進めていることを示します。「Safer Choice」は、消費者、企業、購入者が、人間の健康と環境にとってより安全な成分を含む製品を見つけるのに役立つものであり、SCILはその基盤となるリストとなります。本コラムではこのより安全な化学成分の選択を推進する「Safer Choice」について取り上げてみたいと思います。


◆Safer Choice基準について

「Safer Choice」は、消費者が日常的に使用するクリーニング用品や洗剤や洗浄剤、抗菌製品などその他多くの製品が、厳しい安全基準を満たしていることを示すEPAの認証制度です。製品にSafer Choiceのラベルが付いている場合、製品の全成分が、人間の健康と環境保護のための厳しい基準をクリアしていることを意味することになります。

認証のためのSafer Choice基準は、単一の成分の安全性だけでなく、製品全体のライフサイクルにわたる影響について設定されており、以下の項目など評価内容は多岐にわたります。


・人間への健康リスク:

発がん性: がんを引き起こす可能性がない

変異原性: DNAに損傷を与える可能性がない

生殖毒性・発達毒性: 生殖機能や胎児の発育に悪影響がない

急性毒性・慢性毒性: 短期間および長期間の暴露で健康被害がない

内分泌かく乱作用: ホルモン系に影響を与えない

皮膚感作性・アレルギー性: 皮膚炎やアレルギーを引き起こす可能性がない


・環境への影響:

生分解性: 環境中における分解性

水生生物毒性: 魚類や藻類など、水生生物への影響

生物蓄積性: 生物内の蓄積により食物連鎖を通じて広がる可能性

環境中での挙動: 大気、土壌、水中でのふるまい


Safer Choice認証は、その他に製品の性能基準も満たす必要があり、単に安全なだけでなく、消費者のニーズに応える優れた製品であることを保証するものとなります。


◆より安全な化学成分リスト(SCIL)

18物質の追加が公表された「より安全な化学成分リスト(Safer Chemical Ingredients List:SCIL)」は、Safer Choiceプログラムの中核をなすデータベースとなります。このリストは、製品製造者が安全な製品を開発するための指針となることを目的としており、SCILに掲載されている化学物質は、EPAの科学者や専門家によって、人間の健康と環境に対する潜在的なリスクが低いと判断されたものとなります。

SCILは、単に「毒性がない」というだけでなく、幅広い観点から評価された化学物質を掲載しており、以下の4つのマークをつけて分類しています。


・グリーンサークル(Green Circle): 実験データとモデルデータに基づいて懸念度が低い物質


・ハーフグリーンサークル(Half-green Circle):実験データとモデル化されたデータに基づいて、懸念度が低いと予想される物質。


・イエローサークル(Yellow Circle): 特定の機能に利用できる中で安全な化学物質であるが、いくつかのハザードをもち、より安全な代替が期待される物質。


・グレーサークル(Grey Circle): 特定の機能において代替が困難なため、厳格な管理下で使用される必要がある物質。(現在はほとんど設定されていない)


今回追加されたプロピルアルコールなど18物質の内訳は、グリーンサークル15物質、ハーフグリーンサークル2物質、イエローサークル1物質となります。


機能に関するカテゴリーは、抗菌成分、キレート剤、着色剤、消泡剤、皮膚軟化剤、酵素および酵素安定剤、酸化剤および酸化安定剤、ポリマー、防腐剤および酸化防止剤、加工助剤および添加剤、皮膚コンディショニング剤、溶剤、特殊工業用化学品、未分類で構成されています。これらのカテゴリーを取り扱う企業においては、よりリスクの小さい製品を検討する際に参照することが考えられます。


REACH規則など多くはリスクの高い物質を使用することを規制するネガティブリスト方式で運用されますが、Safer choiceにおけるSCILは安全度の高い物質を収載したポジティブリストであることに特徴があります。この3年の推移をみていくと2025年は今回の18物質を加えて26物質、2024年は53物質、2023年は23物質と着実にその物質数を増やしており、総数が983物質となっています。SCILの拡大は製品開発者にとり製品の機能を維持しながら、より安全な成分で代替するための選択肢が増えることになり、Safer Choice基準を満たす製品の開発を促進することにつながります。また、製品を使用する消費者にとっては、Safer Choice基準を満たす製品が増加することにより、安心して製品を選ぶことができるようになると考えられます。


Safer Choiceは認証により製品力を高め、市場の力を使って環境と人間の健康を保護するアプローチです。SCILの拡大により安全な化学物質の選択肢を増やすことは、有害物質の排出を抑制し環境負荷の少ない製品が市場の主流になることを後押しするものとなります。持続可能な社会を目指す企業活動においては注目しておく必要のあるプログラムと考えられます。


(*1)より安全な化学成分リスト(SCIL)

(*2)EPA:より安全な化学成分リスト(SCIL)に18の化学物質を追加

(*3)EPA:汚染防止(P2)



(長野 知広)

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