2021年11月19日更新
米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)は2021年10月28日に、有害物質管理法(Toxic Substances Control Act:TSCA)Section 6(h)によるイソプロピルフェニルホスフェート(Isopropylphenyl phosphate:PIP(3:1))を含有する特定の成形品、および成形品の加工に使われるPIP(3:1)の取扱と販売の規制準拠日を、本年9月に延期した2022年3月8日から2024年10月31日に再延期する提案(Proposed rule)を公表しました。*1 同時に再延期提案に対してのコメントを2021年12月27日までに提出することを求めています。
今回の再延期については公表直後に本コラムのショートコラム*2で概略をお知らせしていますが、今回詳細を見ていきたいと思います。
また、本年9月の前回延期の内容については2021年9月27日の本コラム*3で解説しています。今回の再延期発表の内容は前回の延期公示の内容と重なる部分も多いので、特に延期に至った経緯については前回のコラム*3を参照ください。
1.再延期の目的
前回コラムで説明したように、EPAに寄せられている代替品への切替に要する期間は2.25年から15年以上まで業界によって大きく違っています。
EPAはコメントを受理した業界の共通項として代替品への切替に必要なステップは、
(1)サプライチェーンのどこに(どの部品に)PIP(3:1)が使われているか特定する。
(2)PIP(3:1)の代替品を特定する。
(3)必要に応じて代替品を用いた新しい製品を設計、テスト、再認証する。
(4)新しい製品を市場(サプライチェーン)全体に行きわたらせる。
であることに同意しています。
全米民生技術協会(Consumer Technology Association :CTA)といくつかのコメンターは上記各ステップの代替品置き換えに必要な情報と妥当な必要期間を詳細に検討し、2.25年から6.5年が必要であると見積をして提供していますが、他のほとんどのコメンターはそのような情報を提供していません。したがってEPAはこの見積の最短期間である2.25年を仮定して今回提案の2024年10月31日を仮置きしたとしています。
今回の再延長により来年3月の期限により生じるサプライチェーンの重大な混乱を回避すると共に、各業界がさらなる延期が必要かどうかの情報収集とその情報の提出ができることを目的としているとのことです。
EPAは、ほとんどの業界がまだサプライチェーンのどこにPIP(3:1)が使われているかを正確に調べようとしている段階であることを理解していますが、パブコメの間に再延長期限をさらに延長する必要性があると考えている業界に対し、その延長が必要であることを示す特定の情報と文書を提出することを求めています。
2.今後の見通し
EPAはパブコメにより提供された情報を評価して2024年10月31日の期限を再々延期する必要があるかを検討する予定です。
パブコメで期待されている情報は以下の4項目です。
・自社の製品のサプライチェーンをとおしてPIP(3:1)が使用されている用途の特定
・同じ用途の代替品を特定し、試験し、品質認定するために必要な具体的なステップ、および更新が必要となる試験と認定の詳細
・代替品を特定し、試験し、品質認定するために必要な期間の見積りとサポートドキュメント
・交換部品に関する必要な文書、例えば文書化された耐用年数や交換部品の保証に関する特定の規制
上記に加えてこれらの情報が再々延長を検討するのに適切な情報であるかのコメントとほかに検討するべき項目があるかどうかについてもコメントを要求しています。
EPAは将来のPBTのルールを作成する活動として、PIP(3:1)以外の4つの物質(2,4,6-TTBP, DecaBDE, PCTP, HCBD)を含む新しい規則制定を検討開始する予定であり、2023年に提案を発表予定です。
PBT5物質を包括した新しい規則制定に際しては、今回PIP(3:1)に関して入手した各業界からのコメントや潜在的な代替品などの情報を活用して作成予定です。新しい規則提案を行った時点でその期限を遵守できないと考える業界からは特殊事情の詳細な追加コメントと上記パブコメで要求した4項目に準じた文書の提出を求めることを予定しています。
また、新しい規則制定の一環として2021年1月に提案したPIP(3:1)規制で適用除外となっている項目の正当性をさらに検討して、①新しい規則を適用する、②適用期限の見直しをする、③再度期限の延長をする、などの見直しを行う予定です。
3.まとめ
EPAは2021年1月の最終規則公布、同年3月のノーアクション保証(NAA)、同年9月の適用期限延期、および今回の適用期限再延期と矢継ぎ早に小刻みに軌道修正を図ってきました。PIP(3:1)の使用分野が想定以上に広範囲であり、業界ごとに代替品への切替に要する期間も大きく異なっていることが明らかとなり、社会・経済的なインパクトが大きいことから今回は大幅な適用期限再延期を提案して、その間に他のPBTも含めた包括的な新しい規則を制定しようとしているようです。
当面のエポックは本年12月27日期限のパブコメの内容となりますので、本コラムでも発表があり次第取り上げたいと思います。
(杉浦 順)
参考文献:
*1 Proposed rule
*2 ショートコラム
*3 前回コラム
Comentarios