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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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EU 北欧閣僚会議PFOS&PFOA調査報告書について

2022年03月04日更新

2022年1月18日に北欧閣僚会議の下にある北欧化学グループのサブグループである北欧執行グループ(Nordic Enforcement Group)から「化学製品および成形品におけるPFOSおよびPFOAに関する調査報告書」*1が公表されました。

調査の目的は、北欧市場に投入されている化学製品および成形品がPFOAおよびPFOSのPOPs規則*2の基準に準拠しているかどうかを検査し、POPs規則の認識を高め、新しい制限の実施方法を考えることです。

今回の調査では、合計158の製品(95の化学製品、63の成形品)が調査されました。

本報告書の内容は今後のPOPs規制の方向性を示唆している内容ですのでご紹介します。


1.北欧執行グループ(Nordic Enforcement Group:NEG)について

NEGの主な目的は、北欧各国でヨーロッパの化学物質法の管理と施行に関する経験を交換し、共通の施行プロジェクトを準備して実行することで、今回の調査は共同施行プロジェクトとして2020年初頭に開始され、2021年12月に完了しました。

参加国は、プロジェクト責任者としてフィンランド安全化学庁(Tukes)が参加し、プロジェクトメンバーとしてデンマーク環境保護庁、スウェーデン化学庁、フィンランド安全化学庁、ノルウェー環境庁、およびアイスランド環境庁が参加しています。


2.調査の目的

主な目的は次のとおりです。


1)北欧市場に出回っている化学製品および成形品が、PFOSおよびPFOAに関するPOPs規則の基準に準拠しているかどうかを調査する。

2)POPs規則におけるPFOAの新しい規制についての認識を高める。

3)規制を執行措置でフォローアップし、より高度なコンプライアンスを達成する。

4)新しい規制の施行をどのように実行できるかを参加メンバーが一緒に学ぶ。


プロジェクトの補足的な目的は、化学法でまだ制限されていないPFASの使用に関する当局の知識を向上させることにより、PFASに関する進行中の新たな規制に関する議論に貢献することです。


3.調査結果および措置

調査した製品は89の異なる会社から購入/取得された158の製品で、95の製品が化学製品で、63が成形品です。

分析結果に基づいて結果を要約すると以下となります。

•化学製品の40%と成形品の65%にPFAS物質が含まれていた。

•化学製品/成形品の9%がPOPs規則非準拠

•検査された化学製品の2%および物品の50%には、POPs規制で設定された制限値を下回るレベルのPFOAおよび/またはPFOS物質が含まれていた。

•多くの製品には、POPs規制で制限されていないPFASが含まれていた。


3.1.非準拠品の措置

15の化学製品と成形品(9%)がPOPs規則に準拠していなかった。

内訳は、14個のスキーワックスには基準値以上のPFOAが含まれ、1枚のジャケットには基準値以上またはその付近のPFOS +誘導体が含まれていた。

取り調べを受けた違反企業は、法律の違反を認識しており自主的に必要な是正措置(製品販売中止)を講じ、市場から撤退して消費者から回収しました。規制当局は是正措置として書面による勧告、違反製品の公表を行い、その情報は、必要に応じて、ICSMS(Information and Communication System on Market Surveillance)および/またはセーフティゲートシステムを介して他の加盟国に転送されました。

なお、1つのスノースーツには、限界値を若干超えるPFOA関連物質が含まれていました。 これは、PFOA制限が施行される前にスノースーツが製造されたことを示しており、この製品に対して強制措置は課されていません。


3.2.基準値を下回る含有製品

いくつかの製品(衣類およびスキーワックス)には、意図しない微量汚染物質に関して制限値を下回るレベルのPFOAおよび/またはPFOS物質が含まれていました。

制限値を下回る製品で検出された物質は、意図しない微量汚染物質であるか、意図的に添加されたかは不明です。 ほとんどの場合、濃度は基準値をはるかに下回っていましたので、企業は調査結果について知らされただけです。

ただし調査グループは、鎖長の異なるPFASを低濃度で組み合わせて、製品に汚れ防止や撥水性を持たせた可能性もあると考えています。


3.3.規制外のPFAS含有製品

多くの製品にPOPs規則で制限されていないPFASが含まれていることが判明しました。検出されたPFAS物質は、たとえば繊維やスキーワックスでは、C6(PFHxA )および関連物質、C8(PFOA)、およびC9-14 PFCA(例、パーフルオロノナン酸(PFNA)およびパーフルオロデカン酸(PFDA))が検出されました。

スキーワックスに次いで衣類および自転車ケア製品が、制限のないPFASを最も多く含む製品タイプでした。 ただし、すべての製品タイプにおいて制限されていない物質すべてについて分析されたわけではないため、これは単なる目安です。


3.4.抽出可能な有機フッ素(EOF)分析

EOF分析は、検査した化学製品および成形品の一部に対して実行されました。

EOFの目的は、対象となるPFAS分析では特定できなかった未知の有機フッ素化合物の存在に関する情報を得ることです。 EOF分析は、含まれている個々のPFASに関する情報を提供しませんが、定量分析と組み合わせることで、サンプルに未確認のPFASが多く存在するかどうかを示すことができます。

結論として、スキーワックス、衣類、消火器泡などに高いフッ素レベルが含まれていることが判明しました。 この結果は、プロジェクトの対象となったPFAS分析では特定できなかった未知の有機フッ素化合物が製品に含まれていることを明確に示しています。

調査グループは、 これは制限付きと制限なしの両方のPFASに起因する可能性があると考えています。


4.課題

今回の調査を通じていくつかの課題が明らかになりました。

主な課題は次の通りです。


1) 測定上の課題:

EUの標準化された分析方法を開発する必要がある。理由は、

・PFOA、その塩、およびPFOA関連物質を必要十分な感度と標準物質を備えた標準化されたテスト方法がないこと。

・ほとんどのPFASの定量測定のための標準物質が不足していること。

2)市場には数百のPFOA関連物質があると推定されるが、その物質はほとんど知られていない。市場には多数のPFASが存在するため、PFOA、その塩、およびPFOA関連物質の制限の対象となる物質を定期的に更新してリストを作成する必要がある。

3)製品で検出された制限値を下回る物質は、意図しない微量汚染物質であるか、意図的に添加されたかどうか不明であること。


5.まとめ

今回の調査で、特定の化学製品および成形品で幅広くPFOSおよびPFOAが使用されている実態が明らかになりました。

また、調査の過程でPFOSおよびPFOA規制におけるいくつかの重要な課題が明らかにされました。

その中で浮き上がってきた重要なPOPs規則の方向として、現在制限されている物質は全体のほんの一部であり、製品や物品に含まれる制限されていない物質の多くは、将来的に制限の対象となる可能性があることです。


この考え方は当コラム2022年1月14日掲載の「EU_ECHA化学物質のグループ評価に基づく規制ニーズ評価結果について」*3でご説明した規制物質の代替品候補を同時にカバーする評価方法を通じて、従来のようにある物質に規制を掛けても類似の代替品が使われてさらに代替品の規制をしなければならないといういわゆるイタチゴッコを防ぐという方針と通じるところがあります。

したがって化学製品や製品を市場に出す企業は、これらの物質の生産およびその使用を段階的に廃止するための取り組みを開始する必要があることを示唆していると考えられます。

(杉浦 順)


*1化学製品および成形品におけるPFOSおよびPFOAに関する調査報告書


*2POPs規則


*3「EU_ECHA化学物質のグループ評価に基づく規制ニーズ評価結果について」

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