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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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化学品のラベル・SDSに関する各国の最近の動き

2022年12月09日更新

化学品のラベルや安全データシート(SDS)については、国連GHSが基準を定め、主要な国々の多くは国連GHSを国内法に反映する形で法制化しています。


2022年は国連GHSの改訂はなく、現在は2021年に公表された第9版が最新の状況です。ただし、いくつかの国では、ラベル・SDSに関連する国内法改正の動き等がありましたので、今回は2022年におけるラベル・SDSに関する主な国の動向について整理してみます。


1.施行段階

・EU

EUではREACH規則附属書IIでSDSの記載要件が定められていますが、2020年6月に附属書IIの改正1)が公布されていました。 この改正によって国連GHSの第7版への対応やCLP規則附属書VIIIによって新たに導入された「固有成分識別子(UFI)」への対応等が図られました。この改正内容への対応の猶予期間は2022年12月31日と迫っており、2023年1月以降は改正内容を遵守したSDSの提供が求められることになります。


・オーストラリア

オーストラリアでは、2021年1月から適用された有害化学物質に関連するモデル労働安全衛生法および同規則によって、これまで準拠していた国連GHS第3版から、国連GHS第7版への移行が進められてきました。 移行の猶予期間は2022年12月31日(西オーストラリア州は2023年3月31日)と迫っており2)、2023年1月以降は第7版に準拠した対応が求められることになります。


2.改正段階

・日本

日本では、ラベル・SDSに関連する法規制として、化管法、毒劇法、安衛法が挙げられます。

2022年には、3法規制ともに、従来紙媒体が前提であったSDSの提供方法として新たに電子媒体(電子メールやホームページアドレスの提供等)が認められました3)4)5)。

化管法については、2021年の施行令改正によって、SDSの提供が義務付けられる物質が拡大3)しましたが、毒劇法でも1月に物質の見直し4)が行われました。

さらに2月および5月に安衛法の政省令が改正5)され、ラベル・SDSの義務対象物質の拡大や、成分情報における濃度幅表記の見直し等のSDS記載要件について改正が行われました。


・ベトナム

ベトナムでは化学品法に基づき、化学品政令(113/2017/ND-CP)および通達(32/2017/TT-BCT)によって、ラベル・SDSの要件等が定められ、運用されてきました。

2022年10月に化学品政令の改正(82/2022/ND-CP)6)と通達の改正(17/2022/TT-BCT)7)が公布され、2022年12月22日から適用することが発表されました。

今回の改正によって、危険有害性分類の変更やベトナムのラベル記載項目である次の12項目のうち、(6)の説明内容が修正されるとともに、(9)、(10)については、化学品に限定しない一般的な製品を対象とした「商品ラベルに関する政令(43/2017/ND-CP)」に準拠する等の変更が図られています。

(1)化学品名

(2)化学物質の識別コード

(3)絵表示・注意喚起語

(4)注意事項

(5)内容量

(6)成分情報

(7)製造年月日

(8)使用期限(ある場合)

(9)提供者の特定情報

(10)原産地

(11)使用および保管に関する説明

(12)詳細情報の参照先


3.改正検討段階

・シンガポール

シンガポールでは、職場の安全・健康法(WSHA)により、ラベル・SDSの提供が義務付けられており、ラベルやSDSの記載項目等については、シンガポール規格であるSS586シリーズ(ラベル:SS586-2、SDS:SS586-3)によって定められています。

2022年4月および10月8)に、同規格を国連GHS第7版に対応させる等の改訂案が公表され、現在検討が続けられています。


・マレーシア

マレーシアでは、「労働安全衛生規則(有害化学品の分類、表示およびSDS)」(CLASS規則)によって、ラベル・SDSの要件が定められ、運用されてきました。 2022年6月にこのCLASS規則の改正案が公表9)されました。 公表された改正案では、国連第8版への対応やラベルサイズ要件の見直し等の変更を図る内容となっています。


・台湾

台湾では毒性および懸念化学物質法の下位規定である「毒性および懸念化学物質の表示および安全資料表管理弁法」において、毒性および懸念化学物質についてラベルおよびSDSの作成・提供が義務付けられていますが、2022年7月に同弁法の改正案が公表10)されました。

公表された改正案では、同様にラベル・SDSの要件を定めた職業安全衛生法の下位規定である危険有害性化学品表示および周知規則」との整合が図られるとともに、EU CLP規則等の海外法規制を参考としたラベルサイズ要件の新規追加等の変更を図る内容となっています。


4.最後に

ラベル・SDSについては、原則各国内の製造・輸入者が義務の対象ではあるものの、作成に必要な化学物質の情報やノウハウの不足や、輸入者からのビジネス上の要請等によって、輸出者である日本企業が各国のラベル・SDSを作成することも多くあります。

ラベル・SDSは、国連GHSがベースになっているものの、各国法規制となる段階で、対象範囲や要件で各国固有の内容になっているケースも多くあり、化学品を輸出する日本企業では、今回ご紹介した各国のラベル・SDS要件を把握・対応することが求められます。


(井上 晋一)


【参考情報】

1) EU官報 REACH規則附属書IIの改正


2)オーストラリア労働安全局 ニュースリリース


3)経産省 化管法


4)厚労省 毒物劇物の安全対策


5)厚労省 化学物質による労働災害防止のための新たな規制について


6)ベトナム商工省 政令改正


7)ベトナム商工省 通達改正


8)シンガポール企業庁 規格改正の意見募集


9)マレーシア労働安全衛生局 CLASS規則改正案の概要


10)台湾行政院環境保護署 ニュースリリース

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