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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

ECHA執行情報交換フォーラムによる市場調査の動向

2023年05月26日更新

欧州化学品庁(ECHA)の「執行情報交換フォーラム(フォーラム)」では、毎年1つのテーマを選定し、多くの加盟国が参加して1年間大規模な市場調査等を実施する「REACH規則執行プロジェクト(REACH EN FORCE:REF)」が行われ、翌年末にその結果を取りまとめた報告書が公表されます。 また、REFよりも小規模なパイロットプロジェクトが年間1~2テーマ実施されています。


今回は、フォーラムによる市場調査の動向として、最近公表された市場調査結果や今後の調査予定のテーマを取り上げることで、REACH規則やCLP規則等の化学物質規制において当局が関心を持っているテーマが何か整理してみます。



1. 調査結果が公表されたプロジェクト

REF-9:認可

「認可」をテーマとして2021年に28加盟国が参加して実施されたREF-9の報告書が、3月に公表1)されました。

認可については、過去にパイロットプロジェクトのテーマとして取り上げられたことがありますが、日没日が経過した認可対象物質や認可付与の拡大を受けて、REFのテーマとして改めて取り上げられました。REF-9では「認可」がテーマとして、使用・販売前の認可取得や、認可決定時に設定された使用条件に従った管理、川下ユーザーの通知等の義務に関して、516社に対して調査が実施され、報告書では502件の調査結果が取りまとめられています。

調査によって、2021年1月時点で日没日が経過しており、認可を取得していなければEU域内での使用や上市が原則禁止されている認可対象物質のうち、31物質の使用が確認されました。そのうち、最も多く使用されていたのが、三酸化クロムとクロム酸ストロンチウムのクロム化合物でした。

一方、502件の調査によって、203件(40%)が認可に関する次のようなREACH規則の義務に違反していることが確認されました。


・26%が違反:川下ユーザーは、川上企業が認可取得時に設定された条件に従って、認可対象物質を使用しなければならない(REACH規則第56条2項)

・26%が違反:川下ユーザーは、認可を取得した川上企業から提供された情報等に基づき、特定されたリスクを適切に関するための措置を特定し、講じなければならない(REACH規則第37条5項)

・20%が違反:川上企業の認可取得に基づき、認可対象物質を使用する川下ユーザーは最初の供給を受けた日から3カ月以内にECHAに届出しなければならない(REACH規則第66条1項)

・3%が違反:認可を取得しなければ認可対象物質を使用、販売してはならない(REACH規則第56条1項)


認可に関しては、認可対象物質を継続して取り扱う際の認可取得に対する違反率は3%と少ない結果となっていますが、川上企業が認可を受けた場合に、認可対象物質を提供された川下ユーザーの義務で違反率が高い傾向が伺えます。


また、これら違反事例で取り扱われている認可対象物質としては「クロムイエロー」や「クロム酸ストロンチウム」、「三酸化クロム」などのクロム化合物が多く挙げられています。

これらの違反事例については、多くは書面での指導や行政命令によって、是正対応が図られていますが、一部には罰金や刑事告訴等の厳しい対応も図られています。


パイロットプロジェクト:廃棄物から回収・再利用された物質

「廃棄物から回収・再利用された物質」をテーマとしたパイロットプロジェクトの報告書が2022年11月に公表2)されました。このパイロットプロジェクトでは、2021年に11加盟国が46件の調査が実施され、REACH規則第2条7項(d)で定められている廃棄物から回収・再利用された物質の次の2つの登録免除要件の順守状況が確認されました。


・回収された物質がすでに登録されている物質であること

・REACH規則第31条および第32条に基づくSDSやその他情報を提供すること


調査の結果、前者の義務については26%、後者の義務については4%の違反が確認され、またその他にもCLP規則に基づく分類・表示等についても37%の違反が確認されました。


2. 調査実施中のプロジェクト

まだ報告書公表までは至っていませんが、現在、調査や報告書のとりまとめが行われている調査プロジェクトは次の通りです。


パイロットプロジェクト:混合物(特に洗剤や洗浄剤)の分類(2022年)3

物質や混合物といった化学品は、CLP規則に従った危険有害性の分類を行わなければならず、その分類結果の適切性が調査され、現在報告書のとりまとめが行われている段階です。


<REF-10:製品(混合物や成形品)中の有害化学物質(2022年)4>

REACH規則の制限やPOPs規則といった含有制限をはじめ、成形品中のCLSの情報伝達等の義務、さらにはECHAの所管外のRoHS指令や玩具指令なども含めた調査が実施され、現在現在報告書のとりまとめが行われている段階です。


<パイロットプロジェクト:CLP規則の中毒センター届出(2023年)5>

2021年1月から消費者向けおよび専門家向けの混合物については、化学品による緊急事態が発生した場合に、中毒センターが適切な助言を提供できるよう、中毒センター届出(PCN)の義務が開始されています。この義務の履行状況を確認するパイロットプロジェクトが進められています。


<REF-11:SDS(2023年)6>

SDSは、REF-2でもテーマとして取り上げられ、その調査結果では、半数以上で違反が確認される結果となり、SDSの品質向上は継続した課題となっていました。前回調査から10年が経過し、改めてSDSをテーマとした調査が開始されています。


3. 今後調査が実施される予定のプロジェクト

上記以外にも、次のようなテーマでの市場調査が確定しています。


<パイロットプロジェクト:工場での物質使用の制限(ジクロロメタンおよびN-メチルピロリドン)(2023年)7>

REACH規則附属書XVIIのエントリー59「ジクロロメタン」では、労働環境において0.1wt%以上ジクロロメタンを含有する塗料剥離剤の使用が禁止されており、またエントリー71「N-メチルピロリドン」では、SDSに記載されたばく露限界値未満になるようなリスク管理措置を実施していいなければ製造や使用が禁止されています。このパイロットプロジェクトでは、このような労働者保護に関連する制限条件の順守状況について、労働安全衛生分野の監督官と協力した調査が実施される予定です。


<パイロットプロジェクト:化粧品等の消費者向け製品におけるPFCA類(PFOA類含む)の制限(2023~2024年)8>

すでにPOPs規則で禁止されているペルフルオロオクタン酸(PFOA)類が化粧品中から検出されたことをきっかけに、PFOA類をはじめ、REACH規則附属書XVIIエントリー68「炭素鎖(C9~C14)を有するペルフルオロカルボン酸((C9-C14 PFCA))類)」といったペルフルオロカルボン酸(PFCA)類の含有制限の順守状況が調査される予定です。

<REF-12:輸入製品(物質・混合物・成形品)(2024年)9)

輸入製品については、2019年に税関当局と連携したパイロットプロジェクトが行われ、調査の結果、23%の製品で何らかの違反が確認されていました。またこれまでもEU域内製品よりも輸入製品の違反が散見されていたことから、入国時における輸入管理がEU市場に違反製品を流通させないために最も効果的な手段であるとし、税関当局との連携を強化して、REF-12として大規模な調査が実施される予定となっています。


4.最後に

これらのテーマを見てみると、認可やSDS、輸入製品など、過去に実施した調査を改めて実施するものや、中毒センター届出、工場での物質使用の制限、PFCA類含有など、新たに義務化された手続きや制限事項等の履行状況を確認するものがあります。

今回取り上げたテーマの多くは日本企業が輸出する製品(化学品や成形品)にも関わる内容も多くあり、既に多くの企業では検討・対応されているものと想定されますが、これらの市場調査に取り上げられるテーマは、当局が関心を持っている内容であると言えます。

テーマに取り上げられたから何かしなければならないわけではありませんが、テーマとして取り上げられる、あるいは調査結果の報告書の内容は、自社の取組みを改めて確認・見直す契機として活用することができます。


(井上 晋一)


1)ECHA REF-9報告書


2)ECHA パイロットプロジェクト報告書(廃棄物から回収・再利用された物質)


3)ECHA ニュースリリース(2019年6月)


4)ECHA ニュースリリース(2020年7月)


5)ECHA ニュースリリース(2020年11月)


6)ECHA ニュースリリース(2021年6月)


7)ECHA ニュースリリース(2021年11月)


8)ECHA ニュースリリース(2023年3月)


9)ECHA ニュースリリース(2022年11月)

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