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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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成形品中の認可対象物質の制限要否の検討状況

2023年07月14日更新

ご承知のとおり、REACH規則では、認可対象候補物質(CLS)が1回/半年で追加され、それらCLSに指定された物質の中から、認可対象物質としてREACH規則附属書XIVに収載され、認可の義務が課されます。


認可はあくまで物質・混合物を対象に、認可を受けていなければEU域内での上市や使用が禁止されるものであり、成形品は対象外となっています。 そのため、日本の成形品メーカーから見ると、CLSに収載されれば、CLSの情報伝達やSCIPデータベース登録等への対応が必要になりますが、認可対象物質に収載されても、従来のCLSの管理を継続すれば良く、追加的な対応は基本的に発生しません。


しかしながら、REACH規則第69条2項では次のように定めています。


<REACH規則第69条2項>

欧州化学物質庁(ECHA)は認可対象物質の日没日以降に、同物質の成形品への使用による健康や環境へのリスクが十分に管理されているか否かを検討しなければならない。 ECHAは、リスクが適切に管理されていないと判断した場合には、制限提案文書を作成しなければならない。

(執筆者仮訳)


このように、認可の義務については、成形品は対象外ですが、成形品中の認可対象物質については、ECHAがリスク評価を行い、必要に応じて制限として規制する枠組みとなっています。


今回は、この成形品中の認可対象物質に対するECHAのリスク評価について取り上げます。


1.認可対象物質から制限化された代表的な例

認可対象物質を収載したREACH規則附属書XIV1)はエントリー59まで収載されています。 このうち最初にREACH規則第69条2項のリスク評価を経て制限化された物質は、エントリー4~7の4種のフタル酸エステル類(DEHP、BBP、DBP、DIBP)です。


これら4物質は2009年に制限対象物質としてREACH規則附属書XVIIのエントリー51に収載され、玩具・育児用品中の含有が制限されていました。その後、REACH規則第69条2項に基づくECHAのリスク評価によって、成形品中のリスクへの対応が必要であると判断され、2018年に屋内で使用される一般消費者向け製品に制限範囲が拡大されました。


このようにREACH規則では成形品中の認可対象物質を制限として規制する枠組みがあり、実際に制限化されている物質もありますが、認可によって物質・混合物の上市や使用が原則禁止される日没日(4種のフタル酸エステル類の場合は2015年2月)から、成形品を対象とした制限が課される(4種のフタル酸エステル類の場合は2020年7月)までに、長いタイムラグが存在することになり、その点はドイツ等の加盟国が要改善点として指摘していました。


2.成形品中の認可対象物質に対するECHAによるリスク評価の手続き2)

ECHAによる成形品中の認可対象物質に対するリスク評価の取組みは、以前に比べると迅速化されつつあり、日没日までにリスク評価を実施することなっています。


ECHAによるリスク評価では、まず成形品の認可対象物質の有無について、主に次のような情報源をもとに特定していきます。


・認可対象物質の登録一式文書に記載された用途情報

・成形品中のCLSに関する届出情報やSCIPデータベース登録情報

・RAPEXの通知情報

・加盟国の執行調査情報

・認可申請情報


また、ステークホルダーに対する情報提供要請を行い、情報を集めます。 これらの情報をもとにして、リスク評価が実施され、制限提案の要否が判断されることになります。


3. ECHAによるリスク評価の最近の動き

この1年でも、いくつか認可対象物質についてリスク評価案およびリスク評価結果が公表されていますので、その状況を整理します。


<ステークホルダーからの情報提供要請3)>

現在、次の3つのリスク評価案が公表され、ステークホルダーからの情報提供が求められています。


・附属書XIVエントリー47 トリス(ジメチルフェニル)=ホスファート

現時点のリスク評価案では、成形品中の含有はあり、健康リスクをもたらす可能性があると判断されています。そのため、制限提案を進める判断が示されていますが、制限提案にあたっては、他の有機リン系難燃剤のリスクも考慮することが推奨されています。

・附属書XIVエントリー50 1,3-ジオキサン類

現時点のリスク評価案では、成形品中の含有はないものとし、制限提案は不要と判断されています。

・附属書XIVエントリー51~54  4種のフェノール性ベンゾトリアゾール類

現時点のリスク評価案では、いずれの物質も成形品中の含有はあり、環境への放出によってリスクをもたらす可能性があると判断されています。4種のうち、UV-328についてはすでにストックホルム条約で廃絶対象に指定されたことから制限提案は不要であるものの、残りの3物質については制限提案を進める判断が示されています。


<情報提供を踏まえた最終化検討中4)>

現在リスク評価の最終化に向けて、次の2物質について検討が進められています。


・附属書XIVエントリー26 1,2-ジクロロエタン(EDC)

リスク評価案では、輸入成形品中の含有が確認されており、適切に管理されていない健康リスクの可能性があるとし、制限提案を進める方針が示されていました。

・附属書XIVエントリー27 2,2’-ジクロロ-4,4’-メチレンジアニリン(MOCA)

リスク評価案では、輸入成形品中の含有が確認されており、適切に管理されていない健康リスクの可能性があるとし、制限提案を進める方針が示されていました。


<リスク評価完了5)>

この1年程度の間では、次の4つのリスク評価の結論が公表され、制限検討の要否が決定しています。

・附属書XIVエントリー33~39および44~46 10種のフタル酸エステル類

9種のフタル酸エステル類については輸入成形品中の含有が確認されたものの、リスク評価に関しては、すでに制限ロードマップに収載されている「オルソ フタル酸エステル類」を対象としたリスク大規模調査に含めて結論を出すことが示されました。

・附属書XIVエントリー40 アントラセン油

リスク評価の結果、成形品中の含有によって、適切に管理されていない健康や環境リスクの可能性があるとし、制限提案を進めることが判断されました。

・附属書XIVエントリー41 コールタールピッチ

リスク評価の結果、成形品中の含有によって、適切に管理されていない健康や環境リスクの可能性があるとし、制限提案を進めることが判断されました。

・附属書XIVエントリー48、49 過ほう酸ナトリウム類

リスク評価の結果、健康リスクが適切に管理されていない成形品への含有はないものとし、制限提案は不要と判断されました。


4. 最後に

このように認可対象物質は必ず成形品中の含有についてリスク評価が行われ、リスク評価に結果次第で、制限手続きが実施されることになります。


これらの物質については、当然CLSに指定されており、chemSHERPA等の情報伝達ツールでも管理対象となっているため、成形品メーカーでは、既に含有情報を把握していることになります。 また、仮にリスク評価の結果、制限手続きが開始されたとしても、一定の時間があります。


そのため、今回ご紹介した成形品中の認可対象物質のリスク評価の取組みについては、詳細を注視する必要はなく、制限手続きが開始された後に動向をウォッチすることで十分ではないかと考えます。


(井上 晋一)


1) ECHA 認可対象候補物質リスト


2)ECHA REACH規則第69条2項に基づくECHAによる制限文書


3)ECHA 現在の情報提供要請


4)ECHA 過去の情報提供要請


5)ECHA 完了済のECHAによる制限に関する活動

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