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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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環境犯罪に対する新たな指令(案)について

2023年12月15日更新

欧州理事会と欧州議会は2023年11月16日、EU環境保護法の強化を目的とした環境犯罪の捜査と訴追を改善する新たな指令(案)について暫定合意したことを公表しました(2023年12月1日に最終案を更新)(*1)。 この指令(案)は、EU環境法の進展に伴い環境をよりよく保護するために、刑事犯罪と制裁の定義に関する最低限の規則を確立することを目的として、2008年に発効している現行の指令(Directive 2008/99/EC)(*2)を改正するものです。


EUは廃棄物管理や野生生物・植物の取引に関する規則の導入など、あらゆる形態の環境犯罪に対する措置を講じており、刑法による環境保護に関する既存の規則の強化にも取り組んでいます。


本コラムでは、環境犯罪の捜査と訴追を改善する新たな指令(案)(*3)について取り上げてみます。


◆新たな指令(案)の違反内容

公表された指令(案)では、現行の指令で9項目であった違反の数を18項目に増やしています。 違反にあたる項目を増やすことにより、環境に害を及ぼすために禁止されている行為の種類を拡張し、具体的な法規制を記載して明確化しています。 以下に指令(案)に記載された違反行為(第3条(1))を示します。

(※が付いている項目は指令(案)で新たに追加された内容)


(a)人に死亡もしくは重傷を負わせるまたは大気や土壌の質に重大な損害を与えるまたはその可能性のある大量の物質または電離放射線を環境中に放出する行為

(b)※禁止事項またはその他の要件に違反し、人に死亡もしくは重傷を負わせるまたは大気や土壌の質に重大な損害を与えるまたは大規模に使用した結果として物質やエネルギー、電子放射線を放出し動物や植物に影響を及ぼす可能性のある製品を上市した場合

(c)※人に死亡もしくは重傷を負わせるまたは大気や土壌の質に重大な損害を与えるまたはその可能性のある物質の製造、市場投入、または使用(単独、混合物、または成形品への含有を含む)

法規制としてはREACH規則(制限、認可)やEU 農薬登録規則、EU 殺生物性製品規則、CLP規則、POPs規則(附属書Ⅰ)への違反が該当する。

(ca)※水銀規則(2017/852/EU)に定められた要件に違反した、水銀、水銀化合物、水銀混合物および水銀添加製品の製造、使用、保管、輸出入。

(d)※環境影響評価指令(2011/92/EU)の第1条(2)(a)で言及されているプロジェクトの実行において、第3条(1)に定義された要因に重大な損害を与える、または引き起こす可能性があるもの

(e)廃棄物枠組み指令(2008/98/EC)の第3条(2)に定義されている有害廃棄物に関するもので無視できない量またはそれ以外の人に死亡もしくは重傷を負わせるまたは大気や土壌の質に重大な損害を与えるまたはその可能性のある廃棄物に関する収集、輸送、回収または処分などにおける違法行為。

(f)違法な出荷について規定した欧州議会および理事会の規則 (EC) No 1013/2006の第2条 (35)の範囲内で出荷された廃棄物の輸送。

(g)※シップリサイクル規則(1257/2013/EU)の範囲内にある船舶のリサイクルで、所定の船舶リサイクル施設でのリサイクルを義務付ける第6条(2)のポイント(a)の要件に従わない場合。

(h)※船舶発生源汚染および罰則の導入に関する指令(2005/35/EC)の第3条の範囲内にある汚染物質を同指令第3条(1)で言及されている海域のいずれかへ排出した場合。

ただし、同指令の第5条に定められた例外を満たしておらず、水質の悪化や海洋環境への損害を引き起こす、または引き起こす可能性があるものに限る。

(i)危険な物質が関与する重大な事故の危険性の管理に関する指令(2012/18/EU)や産業排出物に関する指令(2010/75 / EU)、EMC指令(2013/30/EU)の範囲内で人に死亡もしくは重傷を負わせるまたは大気や土壌の質に重大な損害を与えるまたはその可能性のある危険な活動が行われる施設、または危険な物質、調合物、または汚染物質が保管または使用される施設の運営、閉鎖。

(ia) 海洋石油およびガス操業の安全性に関する指令(2013/30/EU)の範囲内で人に死亡もしくは重傷を負わせるまたは大気や土壌の質に重大な損害を与えるまたはその可能性のある危険な活動が行われる施設の建設、運営および撤去。

(j)欧州原子力共同体の基本安全基準指令(2013/59/Euratom)や原子力施設の原子力安全のための共同体の枠組みを確立する指令(2014/87/Euratom)、水中の放射性物質に関して人の健康を保護するための要件に関する指令(2013/51/Euratom)の範囲内となる放射性物質の製造、生産、加工、取扱い、使用、保管、保管、輸送、輸出入または廃棄。

(k)※EU水政策枠組み指令(2000/60/EC)が意味する地表水域の生態学的状態や可能性、あるいは地下水域の量的状態に重大な損害を与えるまたは引き起こす可能性がある、地表水または地下水の汲み上げ。

(l)生息地指令(92/43/EEC)の付属書IVおよびVにリストされている野生動植物の種および野鳥類の保全に関する指令(2009/147/EC)の第1条で言及されている種に関する殺害、破壊、所持、販売または販売のための提供。

(種の保存に対して与える影響が無視できる量の標本の採取などの場合は除く)

(m)野生動植物の種の保護に関する規則(338/97/EC)の附属書AおよびBにリストされている野生動植物種の標本またはその一部または派生品の取引または輸入。(その行為が無視できる量の標本に関係する場合を除く)

(n)※EU 森林破壊禁止規則(2023/1115/EU)の第3条に定められた禁止事項に違反して、関連商品および関連製品を連合市場で販売または入手可能にすること、またはEU市場からの輸出を行うこと。ただし、その行為が無視できる量の場合は除く。

(o)生息地指令(92/43/EEC)付属書II(a)にリストされている動物種の生息地の悪化または第6条(2)の範囲内で、保護された場所内の生息地の悪化を引き起こす行為 (この悪化が重大な場合)。

(p)※侵略的外来種の導入と拡散の防止と管理に関する規則(1143/2014/EU)の第7条(1)に定められた制限に違反し、EU内に持ち込む、市場に出す、保管、繁殖、輸送、使用、交換、繁殖の行為で侵略的外来種の拡散した場合、または、第8条に基づいて発行された許可の条件、または第9条に基づいて与えられた許可の条件に違反した場合。

(q)今後制定されるオゾン層の破壊物質に関する規則(法令番号未取得)の第2条(1) に規定されているオゾン層破壊物質またはそのような物質を含む、またはそれに依存する製品および装置または廃止されるオゾン層の破壊物質に関する規則(1005/2009/EC)の第2条(2) に記載されているような物質を含む、またはそれに依存する製品の生産、市場投入、輸入、輸出、使用、排出または放出。

(r)※今後制定されるフッ素系温室効果ガスに関する規則の修正指令(法令番号未取得)または廃止されるフッ素系温室効果ガスに関する規則(517/2014/EU)の第2条(2)に定義されているフッ素系温室効果ガス、またはフッ素系温室効果ガスを含むまたはそのようなガスに依存する製品および機器の生産、市場投入、輸入、輸出、使用、排出または放出。

現行の指令でも同様の内容が規定されている(e)、(i)、(j)、(l)、(m)、(q)においても具体的な法規制と適用範囲に関する記載が追加されており、適用範囲を明確化しています。

また、化学物質を取り扱う企業においては、(c)にて成形品への含有を含む有害化学物質に関する内容の追加が注目されるところであり、REACH規則(制限、認可)やPOPs規則(附属書Ⅰ)への違反が環境犯罪として明確化されているところに注意しておく必要がありそうです。


◆新たな指令(案)の罰則規定

罰則に関する規定は第5条~第7条に規定があり、自然人と法人に分けられています。ここでは企業にとって関心が高いと考えられる法人への罰則を中心に取り上げていきます。


現行の指令は「効果的で、相応の、かつ、抑止力のある刑罰によって処罰されることを確保するために必要な措置をとる」という記載にとどまっていますが、今回の指令(案)では先述した違反に対する法人への制裁措置として、以下の内容を具体的にあげています(第7条(2))。

(a)一定期間内に環境を回復させるまたは環境への損害を補償する義務

(b)公的給付や援助を受ける権利からの除外

(c)補助金など公的資金へのアクセスからの除外

(d)一時的または恒久的な事業活動の資格剥奪

(e)犯罪行為を引き起こした活動を行うための許認可の取り消し

(f)司法の監督下に入る

(g)司法上の清算

(h)犯罪行為に使用された施設の閉鎖

(i)環境基準への準拠を強化するためのデューデリジェンススキームを導入する義務

(j)有罪判決または適用された制裁または措置に関連する司法判決の一部または全ての公表

また、制裁措置のうち罰金については、第3項にて規定しています。

違反内容(a)~(j)、(n)、(q)、(r)

罰金の上限を前事業年度における法人の世界全体の売上高の5%以上または4000万ユーロ以上に設定する。

違反内容(k)、(l)、(m)、(o)、(p)

罰金の上限を前事業年度における法人の世界全体の売上高の3%以上または2400万ユーロ以上に設定する。


◆今後の予定

今回暫定合意した指令(案)は欧州連合の機能に関する条約(TFEU)の第83条第2項(通常の立法手続き)に基づいているため、通常の立法手続きとして発効前に欧州議会と理事会による正式な承認が必要となります。


また、第83条第2項は加盟国の刑事法令の平準化を目的とする規定であり、前文(l)(la)に記載のあるTFEU 第191条は、加盟国の環境条件を考慮する規定となります。

したがって、指令(案)の発効後は、各加盟国がそれぞれの環境条件に応じて、加盟国間で同水準となる罰則規定を国内法にて制定していく流れになると考えられます。


◆最後に

環境犯罪は麻薬密売と偽造に次ぐ世界第3位の犯罪行為で年間5%〜7%の割合で成長しているとされています。 環境犯罪は検出して起訴し、罰することは困難とされ、世界で最も収益性の高い組織犯罪活動の1つとされており、その損失額は毎年1,100億ドルから2,810億ドルに及ぶとされています(*4)。 EUは新たな指令(案)にて化学物質や水銀の違法な取引や取り扱いについて、環境犯罪の構成要件として明示しましたので、企業においては今後より一層自社が取り扱う製品などの含有物質について内容を把握しておく必要があるように思います。


(*1)欧州理事会と欧州議会が環境犯罪に関するEU新法で暫定合意


(*2) 刑法による環境保護に関する指令


(*3)環境犯罪の捜査と訴追を改善する新たな指令(案)


(*4)環境犯罪に対するEUの闘い


(長野 知広)

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