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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

米国TSCAのDecaBDE規制改正案

2024年01月19日更新

米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)は、2023年11月20日に、有害物質管理法(Toxic Substances Control Act:TSCA)Section 6(h)に基づき、デカブロモジフェニルエーテル(Decabromodiphenyl ether:DecaBDE))とイソプロピルフェニルホスフェート(Isopropylphenyl phosphate:PIP(3:1))を含有する特定の成形品、および成形品の加工に使われるDecaBDEとPIP(3:1)の規制を強化する改正案(改正案)1)を提案し、2024年1月8日までパブリックコメント(パブコメ)を受け付けると発表しました。2)


TSCAによるDecaBDEまたはPIP(3:1)の規制に関しては、本コラムでも変更がある都度取り上げてきました。3)4)5)6)


今回の改正案は、2021年の5種の難分解性・高蓄積性・毒性物質規制(Persistent Bioaccumulative & Toxic:PBT規制法)のうちDecaBDEとPIP(3:1)の2種のみに関する改正案であり、その他の3種(2,4,6-TTBP、HCBD、および PCTP)に関しては変更ありません。


現状では、DecaBDEに関しては、PBT規制法により原子力発電所用ケーブル、航空宇宙関連、及び自動車部品など一部の適用除外用途以外には製造・輸入・加工が禁止されています。


PIP(3:1)は、PBT規制法発効後の事業者からのクレームにより度々修正が行われ、最終的に成形品に関しては2024年10月31日まで適用が延期されています。


今回のコラムでは、このうちDecaBDEに関する部分について解説します。PIP(3:1)に関する部分は、近日中に別途本コラムで説明を予定しています。


1.改正案の概要

1.1.改正案提出の背景

EPAは、2021年のPBT規制法施行後にDecaBDEおよびPIP(3:1)の規制が既存のサプライチェーンに与える影響が非常に大きなものであるという関係業界からのクレームを多く受け取りました。 一方で、適用除外用途によるヒト及び環境に与える影響を懸念するコメントも多く、TSCA第6条(h)(4)の「実行可能な範囲でばく露を低減するべきである」7) という義務を果たすことが求められています。


今回の改正案は、この両者のバランスを見直すために行われたものであり、2021年10月のPIP(3:1)規制適用再延期8) の際に「将来のPBTのルールを作成する活動として、PIP(3:1)以外の4つの物質(2,4,6-TTBP, DecaBDE, PCTP, HCBD)を含む新しい規則制定を検討開始する予定であり、2023年に提案を発表予定」としていたものです。


1.2.DecaBDE改正案概要(40CFR751.405)9)

DecaBDEに関しては、6項目の追加・変更が提案されています。以下に各項目の概要とコメント依頼内容を概説します。


①既存のプラスチック輸送パレットにDecaBDE含有を示すラベル貼付(追加)

目的は、パレットのリサイクル、改修、または加工の際に個人用保護具(Personal Protective Equipment:PPE)を着用する必要があることを労働者に通知するものであり、これによりDecaBDEへの潜在的なばく露を減少させることを目的としています。 PPE着用に関しては後述します。


なお、新規のDecaBDEを含有するパレットの製造・輸入・流通は禁止されています。

ラベル情報には、次のテキストを明確に、目立つように、読みやすいフォント サイズで表示する必要があります。


「このパレットには、難分解性、生体蓄積性、米国環境保護庁によって有害物質(PBT)と認定されています。このパレットをリサイクルまたは処理するすべての人は、 40 CFR 751.405(e)の規制(今回の改正案で新規追加項目)に従って、PPEを着用する必要があります。 DecaBDE の使用は40 CFR 751.405 9)に基づいて制限されています。 プラスチック輸送用パレット用などの選択された用途を除き、すべての人が DecaBDE または DecaBDE を含む製品または物品の製造 (輸入を含む)、加工、商業流通を禁止されています。 40 CFR 751.405(a)(2)(v)および(b) 9)でパレットの耐用年数終了後は、2021 年 3 月 8 日より前に製造されたDecaBDEを含むプラスチック輸送用パレットの商業流通がすべての人に禁止されます。」


EPA は、提案されたラベルの実行可能性と、EPA が各ラベルに要求することを提案した文言についてコメントを求めています。


②DecaBDEを含む特定の活動にPPEの装着を義務化(40 CFR 751.405(e)に追加)

製造および加工中に労働者がばく露される可能性を最小限に抑えるため、40 CFR 751.405(a)(2)にリストされている段階的適用除外用途において、本改正規則発効から60日以内にPPEの使用を義務付けることを提案しています。


また、既存のプラスチック製輸送用パレットのリサイクルプロセス中にも、呼吸器用および皮膚用 PPE(割り当て保護係数 (APF) 10 の米国国立労働安全衛生研究所(National Institute of Occupational Safety and Health:NIOSH )承認 N95 マスク、DecaBDE に対して化学耐性のある手袋)を義務付けることを提案しています。


一方で、原子力発電施設で使用するためのDecaBDEを含むワイヤーおよびケーブルの加工、自動車および航空宇宙車両用のDecaBDEが添加された新規および交換部品の加工、および自動車および航空宇宙車両に使用されるDecaBDE含有ワイヤーおよびケーブルの加工には、労働者がばく露される可能性が低いとしてPPEを要求することは提案していません。


PPEの使用に関して、事業者は、(米国)労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health:OSHA)の29 CFR 1910.134 10)の(a)から(l)に沿った呼吸保護プログラムの実施と、特にDecaBDE へのばく露の可能性を伴う職務への最初の着任前または最初の着任時に、PPE の着用が義務付けられているばく露の可能性のある各人に OSHA の一般的な PPEトレーニング要件 ( 29 CFR 1910.132(f)) 11)に従うトレーニングを提供することを提案しています。


また、PPE プログラムに関する以下の情報を文書化して記録し5年間保管して、要求に応じて EPA が利用できるようにすることを提案しています。

・DecaBDEを取り扱う各人の氏名、職場の住所、勤務シフト、職種、および作業領域、およびPPE の種類

・PPE選択の根拠

・トレーニングが行われたことを示す文書


③水への放出禁止(追加)

DecaBDE、DecaBDE 含有製品の製造、加工、商業流通中に水への放出を禁止することを提案しています。


EPAは、DecaBDE の水への放出は現在起こっていないと理解していますが、水への放出の禁止は、TSCA セクション 6(h) で規制されている化学物質の環境への放出を防止し、潜在的なばく露を減らすことの重要性を強調する意味で追加しています。


EPAは、エンジニアリング制御、プロセス変更、作業慣行、緊急手順、またはその他の放出を防止する手段などの最良の管理慣行を通じて、水への放出の禁止を最もよく達成する方法についてのコメントを求めています。


④原子力発電施設で使用するDecaBDE含有ワイヤーおよびケーブル絶縁体の商業における加工および流通に対する適用延長を再延長(変更)


2021年のDecaBDE最終規則で2023年1月6日という延長遵守期限を設定し、その後はすべての処理と流通が禁止されています。


DecaBDEを含むワイヤーとケーブルのサプライヤーが商業での加工と流通を中止し、2023年1月6日の準拠日によりワイヤーとケーブルの供給を継続できないことを顧客に通知した直後に、既存の原子力発電設備のメンテナンスに支障が生じ稼働停止に至る可能性が指摘され、EPAは一時的な「執行声明」を発表し、同庁がDecaBDEを含む電線およびケーブルの商業における加工および流通の禁止違反に対する執行を追求しないことを示しました。


その後、サプライヤーとの和解合意契約を結び、同社の顧客がDecaBDE フリーのクラス 1E ケーブルの受領に移行するまでの間、早期に移行が完了しない限り、発効日から5年間継続することで合意されています。


改正案では、40 CFR 751.405(a)(2)に(vi)項を追加し、「電線およびケーブルの耐用年数が終了した後は、原子力発電施設(研究用および試験用原子炉を含む)用のDecaBDE含有電線およびケーブル絶縁体の商業的加工および流通をすべての人が禁止されます。」という表現で、間接的に適用期限の再延長を容認しています。


EPA は、除外される活動の説明に関連して追加の説明点があるかどうかについてコメントを求めています。


⑤DecaBDEを含む原子力発電施設用電線・ケーブルの輸出届出を義務化(追加)

DecaBDE は残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 (POPs 条約) の附属書Aに記載されており、DecaBDE および DecaBDE を含む製品および物品の製造、使用、輸出入が禁止されているため、EPAは輸出入が発生するとは予想していませんでした。 しかしながら同目的での輸出が必要であることが判明し、TSCA セクション 12(b) および40 CFR 707.65(a)(1)(i)および(b)に従って輸出届出が必要であることを指摘しています。この規則案の公開から 30 日後に発効となります。


⑥記録保管要件を 3 年から 5 年に延長し、記録を利用できるようにするための期間を削除(変更)

DecaBDEおよびDecaBDEを含む製品および物品を製造、加工、または商業的に流通させるすべての者に対し、禁止事項および制限の遵守に関する通常の業務記録を3年間維持し、30日以内に記録を利用可能にすることを義務付けましたが、改正案ではTSCAの規定に合わせて記録保持要件を 3 年から 5 年に延長し、DecaBDE と PIP (3:1) の記録を利用要請から30 日以内に提出するという期間を削除することを提案しています。


2.まとめ

PBT規制法は、TSCA Section 6(h)を根拠法として作られていますので、リスク評価の優先順位を決定する際に「コストやその他の非リスク要因を考慮せずに」決めることができます。


DecaBDEおよびPIP(3:1)の規制法も、2021年のPBT規制法施行時にはこのような要因を充分に考慮する必要がなくスタートしていることが、結果として度重なる改正に繋がっているひとつの要因と考えられます。


EPAは改正案の説明の中でリスク評価に関しても、充分な情報が得られていないために「実行可能な範囲で物質のリスクを軽減する」ことを目的に「基準(閾値)の導入をせずに」規制をスタートしていることを説明しています。


リスクの高い物質の規制を一刻も早くスタートさせるためには、このような方法も必要であることは理解されます。


(杉浦 順)


参考文献:

1)改正案


2)改正案のニュースリリース


3)本コラム2021年6月18日付「TSCA PBT PIP(3:1)の動向」


4)本コラム2021年9月27日「米国EPA  TSCAによるPIP(3:1)規制適用延期」 


5)本コラム2021年10月29日「Phenol, Isopropylated Phosphate (3:1)の遵守日は2024年10月31日まで延長」


6)本コラム2021年11月19日「米国EPA TSCAによるPIP(3:1)規制適用を再延期提案」


7) TSCA sec.2605


8)Regulation of Persistent, Bioaccumulative, and Toxic Chemicals Under TSCA Section 6(h); Phenol, Isopropylated Phosphate (3:1); Further Compliance Date Extension


9)40 CFR 751.405


10)29 CFR 1910.134


11)29 CFR 1910.132(f)

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