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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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EU 自動車の循環設計とELV管理規則(案)

2023年08月18日更新

欧州委員会(EC)は、2023年7月13日「自動車の循環設計とELV管理規則」(案)(以下、本規則案)1)を公表しました。2)


本規則案 は、「欧州グリーンディール」3)の「持続可能な消費」と、「欧州新産業戦略」4)の「競争力と環境保護の両立」を実現する手段のひとつとして位置づけられています。 なお本規則案は、「新循環経済行動計画」5)において見直しが求められていた従来の「廃自動車指令」(Directive 2000/53/EC on end-of-life vehicles:ELV指令)6)と「再使用、再利用、再生可能性に関する自動車型式認証指令」(Directive 2005/64/EC on the type-approval of motor vehicles with regard to their reusability, recyclability and recoverability:3R型式認証指令)7)の二つの指令を統合して置き換わるものとされています。


今後本規則案は、通常の手続きに則って欧州議会及び欧州理事会で立法に向けた検討が行われる予定です。


本規則案が施行されることにより、日本からの対象製品のEUへの輸出にあたり対応が必要になることと、今後のEUにおける成形品の規制動向を考えるときに重要な前例となりうることから、以下に概略を説明します。


1.背景と目的

本規則案が提案された背景としては、ヨーロッパの新しい産業戦略の具体的な方向性を示す「新循環経済行動計画」において「設計上の問題を使用済み処理に結びつけることで、より循環的なビジネスモデルを促進し、特定の素材に対するリサイクル含有量の義務化に関する規則を検討し、リサイクル効率を向上させる」という目的で、ELV指令と3R型式認証指令の見直しを行ってきた結果が得られたことと、自動車の急速な電気自動車化(EV化)により希少材料への依存が高くなりサプライチェーン上のリスクが懸念される状況になってきたことが挙げられます。


ELV指令と3R型式認証指令の見直しは2021年から行われており、その結果から次の6つの課題が抽出されました。

①設計と製造における循環性の欠如:設計段階からコンポーネント、部品及び材料の循環(回収・再利用)を考慮したものになっていない。

②自動車廃棄物処理の低品質:材料の分別が不十分であり、再生した鉄の品質が悪く、プラスチックの再生率が低い。

③輸入原材料への依存大:鉄鉱石、ボーキサイト、銅、石油(プラスチック)、ゴム、ガラスなどに加えて、EV化に伴いモーターの永久磁石にレアアースなどが使用されている。

④車両の1/3が行方不明:毎年約350万台の車両が輸出又は違法に処分されている。

⑤弱いガバナンスと協力の欠如:製造業者とリサイクル業者間の協力が不十分であり、リサイクルに関する財務上の責任が欠如している。

⑥重量ベースで1/3の車両は無規制:トラック、バス、オートバイは、現在のELV指令の対象外である。


これらの課題に対処するために、本規則案では以下の6つの政策オプション(Policy Option:PO)に焦点を当てた項目を盛り込んでいます。

PO1.「設計循環」:設計と生産を循環させる。容易に解体できる設計とし、解体業者に情報を提供する。 

PO2.「リサイクルパーツの使用」:新車のリサイクルパーツ使用率を増やす。プラスチックの25%をリサイクル素材、その内25%を廃自動車由来のものとすることを義務化する。

PO3.「より良い処理」:廃自動車からのプラスチックの30%をリサイクルする。

PO4.「より多く回収」:解体業者などへの廃自動車の確認・報告義務と解体証明書の発行、税関との情報共有による第三国への違法輸出抑制、廃自動車の拘束力ある定義の設定などにより、回収率を改善する。

PO5.「拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility:ERP)」:ERP制度導入により、生産者責任を強化し、廃棄物処理事業に資金提供することによりリサイクル業者にインセンティブを提供し、リサイクル材料の品質向上及び生産者とリサイクル業者の協力関係を強化する。

PO6.「より多くの車両を対象」:トラック、バス、トレーラーに対する一連の最低限の処理要件を導入し、段階的に対象車両を増やしていく。


これらの対応により、以下の目的を達成することを目指しています。

・設計から耐用年数終了時の最終処理に至る自動車のあらゆる段階において、自動車部門の循環経済への移行を促進すること。

・使用済み車両とそのコンポーネントからの廃棄物を防止及び制限することを通じて、環境と気候に関する中立的でクリーンな経済を確保すること。


2.本規則案の構成

本規則案の構成は、9章57条からなる本文と11の付属書で構成されています。

各章と附属書のタイトルは次のようになっています。

第1章:一般規程(General Provisions)第1条~第3条

第2章:循環性要求(Circularity Requirements)第4条~第7条

第3章:生産者の義務(Obligation of Manufacturers)第8条~第13条

第4章:廃自動車の管理(Management of End-of-life of Vehicles)第14条~第36条

第5章:中古車及び輸出(Used Vehicles and their Export)第37条~第45条

第6章:施行(Enforcement)第46条~第49条

第7章:委任された権限と委員会の手続き

    (Delegated Powers and Committee Procedure)第50条~第52条

第8章:修正(Amendments)第53条~第54条

第9章:最終規程(Final Provisions)第55条~第57条


附属書Ⅰ:中古車と廃自動車の判断基準

附属書Ⅱ:再利用可能性、リサイクル可能性、回収可能性の計算

附属書Ⅲ:材料、部品、コンポーネント中の鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの存在条件と最大濃度値

附属書Ⅳ:循環戦略

附属書Ⅴ:取外しと交換における情報要件

附属書Ⅵ:ラベル要件

附属書Ⅶ:処理要件

附属書Ⅷ:再利用できないコンポーネントと部品

附属書Ⅸ:生産者登録簿への登録情報

附属書Ⅹ:規則((EU)2018/858)の修正

附属書Ⅺ:相関表


3.内容の詳細

本規則案では、設計段階から再利用可能性、リサイクル可能性、回収可能性、及びリサイクルされた内容物の使用義務などの循環性要件を満たすことが要求されており、生産者に拡大生産者責任(EPR)を課して、廃自動車の収集と処理まで責任を持たせているところが特徴です。また、廃自動車が不当に第三国へ輸出されて問題を起こさないように中古車の輸出要件も規定されています。


第1章:一般規程

本規則案の適用範囲は第2条で規定され、当初は乗用車及びバン(カテゴリーM1、N1:「自動車、トレーラー、そのシステム、構成部品及び単体技術ユニットの型式認証と市場監視に関する規則」(Regulation (EU) 2018/858)8)第4条 (1))が対象ですが、発効から60カ月後にはLカテゴリー車両(カテゴリーL3e、L4e、L5e、L6e、L7e:「二輪車、三輪車、四輪車の型式認証と市場監視に関する規則」(Regulation (EU) 168/2013)9)第 4 条 (2))及びトラック、バス及びトレーラー(カテゴリーM2、M3、N2、N3、O:Regulation (EU) 2018/858 第4条 (1))に対しても廃車両の管理及び輸出要件などが適用されます。


第2章:循環性要求

型式認証プロセスで検証される車両設計に関する循環性要件が規定されており、第4条で各車両タイプの再利用可能性、リサイクル可能性、及び回収可能性に関する最低要件を規定し、各タイプごとに達成すべき率を規定しています。

第5条は、車両における鉛、カドミウム、水銀、六価クロムの使用を制限しており、附属書 Ⅲはこの制限の条件、最大濃度値、及び適用除外を規定しています。


第6条では、各車種に使用済みプラスチック廃棄物からリサイクルされたプラスチックを少なくとも25%含むこと、及びその材料の25%が使用済み自動車のリサイクルから得られるものであることを義務付けています。


第3章:生産者の義務

第8条は、製造業者が型式認証要件に適合していることを証明する方法を規定しています。


第9条では、新しい車種ごとに循環性戦略を作成する義務、及び5年ごとの更新を規定しています。


第10条は、自動車に含まれる指定材料のリサイクル含有量の割合を型式認証文書で宣言することを義務付けています。


第11条では、自動車に含まれる部品、コンポーネント、材料の安全な取外しと交換に関する情報の無料提供を製造業者に義務付けています。


第12条では、搭載されている部品、コンポーネント、及び材料のラベル表示を規程しています。永久磁石を含む電動ドライブモーターのラベル表示に関する詳細な規則は、附属書Ⅵに規定されています。


第4章:廃自動車の管理

第16条で、拡大生産者責任に関する一般的な義務を定め、その範囲を示しています。責任が発生するのは、本規則発効から36カ月以降に初めてEU域内市場に投入された対象車両になります。生産者には、廃自動車を第23条に従って収集し、第27条に従って処理する義務があります。使用する廃棄物処理業者は第34条の条件を満たす業者となります。


第17条では、加盟国に対し、生産者のこれらの要件への遵守を監視する登録簿を作成することを求めています。登録されていない生産者は、加盟国の領域内の市場で入手可能な車両を製造できません。


第20条に、生産者の資金拠出範囲が規定されています。廃自動車の収集費用と処理費用のうちリサイクル等で回収できなかった費用の負担と、意識向上キャンペーンの費用、通知システム確立費用、及びデータ収集と管轄当局への報告にかかるコストが含まれています。


第23条から第26条は、廃自動車の収集に関する規定で、すべての廃自動車は認定処理施設に引き渡すことが義務づけられており、処理施設は処理後に解体証明書を発行する義務があります。自動車所有者は、登録抹消の際に解体証明書を提示する必要があります。


第27条から第36条は、廃自動車の処理に関する規定です。第28条では、粉砕の際に材料毎に分別処理が義務づけられており、第29条では、有害汚染物質(鉛、カドミウム、水銀、六価クロム)を含む部品、燃料・オイルなどの液体、及び電池などの保管及び処理方法を規定しています。


第31条では、取外した部品及びコンポーネントに関する再利用、再製造、改修、リサイクル、又はその他の処理作業への適合性を評価する義務と、それらのラベルの表示方法を規定しています。


第34条には、再利用、リサイクル、再生目標として、発効から36カ月以降に

再利用と回収率合わせて、バッテリーを除く車両1台あたりの平均重量で、年間で95%以上

再使用とリサイクル合わせて、バッテリーを除く車両1台あたりの平均重量で、年間で85%以上

プラスチックのリサイクル率を、発効から60カ月以降に、廃棄物管理業者に引き渡される車両に含まれるプラスチックの総重量の最低30%

としています。


第35条では、破砕処理後の不活性廃棄物の埋め立て処理禁止が規定されています。


第5章:中古車及び輸出

第37条で、中古車の譲渡には車両が廃自動車ではないことを証明することが義務づけられています。


第38条は、中古車の輸出条件として附属書Ⅰの基準で廃自動車ではないこと、及び走行に耐え得るものであることが規定されています。


第39条では、税関が輸出される車両が輸出要件に適合していることを自動的かつ電子的に検証することを義務付けています。


第6章:施行

第48条は、加盟国に対し、本規則の違反に対する効果的かつ適切かつ抑止的な罰則を設けることを義務付けています。


4.まとめ

ECは、これまでにELV指令の評価を2021年3月に公表し、評価結果を基に作成された「使用済み自動車に関するEU規則の改正」(案)を2021年7月に公表し10月までパブリックコンサルテーションに付してきました。

本規則案は、これらの結果をフィードバックして作成されたものです。

注目すべき点として、従来は環境関連の規程は指令が使われることが多かったものが、最近の一連の見直しでは強化されて規則として改訂される傾向にあります。これは、EU単一市場の強化と域内での公平な競争環境を目指しているものと考えられ、今後のその他環境関連指令見直しの方向性を示していると考えられます。

また、「欧州グリーンディール」及び「欧州新産業戦略」のもとで、「循環型経済」を指向する流れの中で「設計段階からの環境配慮」と「拡大生産者責任」がセットで定番メニューととして定着してきています。

「拡大生産者責任」に関しては、生産者側からは負担増となるために異論も出ているようです。特にEU域外の生産者にとっては現地での態勢作りなどの負担感が大きい施策ではないかと思います。


(杉浦 順)



参考文献:

1) 「自動車の循環設計とELV管理規則」(案)


2) 「自動車の循環設計とELV管理規則」(案)のプレスリリース


3) 欧州グリーンディール


4) 「欧州新産業戦略」


5) 「新循環経済行動計画」


6) 「ELV指令」


7) 「3R型式認証指令」


8) 「自動車、トレーラー、そのシステム、構成部品及び単体技術ユニットの型式認証と市場監視に関する規則」


9) 「二輪車、三輪車、四輪車の型式認証と市場監視に関する規則」

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