2022年05月13日更新
【質問】
当社はプラスチック製の電子部品の表面に使用している帯電防止剤にPFASのコンタミが懸念されています。 規制基準を教えてください。
【回答】
PFASとは、パーフルオロアルキル化合物 および ポリフルオロアルキル化合物(Per- and polyfluoroalkyl substances)の略称で、フッ素が含まれる有機化合物の総称です。Forever Chemical(永遠の化学物質)とも呼ばれ、難分解性であるために、人体および環境に長期間残存し、健康被害および環境破壊をもたらすリスクがあるため、近年、規制が厳しくなっています。
PFASと呼ばれるものには実際には数千種類もの化学物質があります。 EUにおけるPFASに関連する法規制としては、REACH規則((EC) No 1907/2006)1)とPOPs規則((EU) 2019/1021)2)があります。REACH規則では、認可候補物質(CLS)3)が成形品中に0.1重量%を超えて含有される場合には、川下事業者への物質名および安全に関する情報伝達の義務(REACH規則第33条)などが生じます。 また、POPs規則では、規制対象の物質は製造、上市、使用が禁止されていますが、非意図的な微量の含有の場合には適用除外が認められます。
各物質の具体的な規制基準については、IEC 62474のデータベース4) のDSL(報告対象物質リスト)を参考にすることができます。 代表的なPFAS物質に関する現時点での規制内容については以下に説明します。
・PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)
PFOSおよびその誘導体はPOPs規則により製造、上市、使用が禁止されていますが、物質、混合物、成形品の中に非意図的な微量汚染物質として存在する以下の場合には適用除外となります。
-物質または混合物中に10mg/kg(0.001重量%)以下
-半製品または成形品または部品中に0.1重量%未満、繊維または他の被覆材料に関しては1μg/m2未満
・PFOA(パーフルオロオクタン酸)
REACH規則によりPFOAはCLSとして定められているため、PFOAが成形品中に0.1重量%を超えて含有される場合には規制対象となります。 PFOAの濃度が0.1重量%を超えない場合でも、PFOAおよびその塩およびPFOA関連化合物はPOPs規則の規制対象であるため、製造、上市、使用が禁止されています。 ただし、物質、混合物または成形品の中に非意図的な微量汚染物質として存在する以下の場合には適用除外となります。
-PFOAおよびその塩が0.025 mg/kg(0.0000025重量%または25ppb)以下の物質、混合物、成形品
-PFOA関連化合物またはその組み合わせが1 mg/kg(0.0001重量%または1ppm)以下の物質、混合物、成形品
-PFOA関連化合物の濃度が20mg/kg(0.002重量%または20ppm)以下の炭素原子数が6以下のパーフルオロ炭素鎖を有するフッ素化合物の製造のための中間体として使用される物質
-PFOAおよびその塩の濃度が1mg/kg(0.0001重量%または1ppm)以下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子およびPTFE微粒子を含む混合物や成形品
・2,3,3,3-テトラフルオロ-2-(ヘプタフルオロプロポキシ)プロピオン酸およびその塩およびそのアシルハライド(HFPO-DA)(フッ素樹脂製造におけるPFOAの代替品)
・パーフルオロブタンスルホン酸(PFBS)およびその塩(PFOSの代替品)
上記の二種類の物質群は、REACH規則によりCLSであると定められているため、PFOAと同様に、成形品中に 0.1重量%を超えて含有される場合には規制対象となります。
ご質問では、電子部品の表面に使用している帯電防止剤へのPFASのコンタミを懸念されているということですが、コンタミの可能性のある物質がCLSである場合は、成形品中のCLSの濃度が0.1重量%を超えていると規制対象となります。 なお、成形品中のCLSの濃度は、複数の部品から成る製品の場合には、構成する部品ごとに濃度を算出します。 コーティングされた成形品中のCLSの濃度は、ECHAのREACH規則における成形品中の物質に関する要求事項に関する手引書(「Guidance on requirements for substances in articles」5))によると、コーティングされた成形品の総重量を分母として計算されます。 また、POPs規則による規制の場合には、非意図的な含有で、規定の上限値の範囲内であれば、適用除外となります。
他のPFAS物質についても、今後は規制が強化される見込みです。 例えば、炭素原子数が9個から14個(C9 - C14)のPFCA(パーフルオロカルボン酸)およびその塩と関連物質は、2023年2月からREACH規則の制限対象物質となる予定です。 また、炭素原子数が6個のPFHxS(パーフルオロヘキサンスルホン酸)およびPFHxA(パーフルオロヘキサン酸)もREACH規則の制限対象物質として加盟国より提案されています。 さらに、幅広いPFASの使用を制限する提案が、オランダ、ドイツ、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンの5か国により2019年12月に行われており、2023年1月にECHAに正式な提案として提出される予定6)です。
今後、強化されるPFASへの規制への対応のためにも、使用している帯電防止剤の原材料の確認や見直し、また帯電防止剤の塗布前の原液管理など、PFASのコンタミを未然に防ぎ、また、PFASが含有されていないことを説明できるような順法管理の仕組みを導入することも有用でしょう。
参考URL
1) POPs規則((EU) 2019/1021)
Regulation (EU) 2019/1021 of the European Parliament and of the Council of 20 June 2019 on persistent organic pollutants
2) REACH規則((EC) No 1907/2006) 改正反映版
3) CLS
4) IEC 62474
5) Guidance on requirements for substances in articles, June 2017, Version 4.0
6) EUにおけるPFAS規制
Komentarze