top of page

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

Q687.EU ビスフェノールAの制限提案の状況について

2024年04月26日更新

【質問】

EUでビスフェノールAの制限提案が取り下げられたと聞きました。 EUではビスフェノールAを自由に使えると解釈してよいでしょうか。

 

【回答】

2023年8月に欧州化学物質庁(ECHA)は、REACH規則の管轄当局であるドイツ連邦化学品部(Bundesstelle für Chemikalien:BfC)が2022年10月にREACH規則に基づき提案していたビスフェノールAとビスフェノール類の制限提案を一時的に撤回した、と発表しました。1) ビスフェノールAは後述の様に既に特定用途で制限対象となっていますが、本提案はビスフェノールAを含むすべてのビスフェノール類の合計値が10ppm(0.001重量%)以上の濃度の混合物や成形品の上市を禁止する、というものです。 ドイツ当局は、2022年12月から2023年6月までの公開協議の間に利害関係者から提出された情報を検討して、制限の範囲などを見直した後にECHAに再提出する予定です。 つまり、今回のビスフェノールA制限提案が完全に取り下げられた訳ではありません。再提出された提案はECHAの科学委員会により協議、精査されることになりますので、今後の動向を注視する必要があります。

またEUではこの制限提案の他に、ビスフェノールAに対して各種の規制がありますので、これらを遵守する必要があります。 以下にEUにおけるビスフェノールAの現在施行中の各種規制と、現在提案・審議されている提案(上記の今回撤回された制限提案以外)につき解説します。


ビスフェノールAは内分泌かく乱物質であることから、REACH規則の57条(f)に該当し、認可対象候補物質(Candidate List Substance:CLS)としてリスト(Candidate list of substances of very high concern of Authorization)に収載されています。 このため、ビスフェノールA を0.1重量%超える量を含有し、使用量が年間1トンを超える成形品は、届出や情報伝達の義務があります。 また、制限対象物質として附属書ⅩⅦにエントリー66として掲載されており、ビスフェノールAを0.02重量%以上含有する感熱紙の上市は禁止されています。


ビスフェノールAは、食品容器や乳幼児用の玩具に使われるポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂に含有されますが、これらについても規制があります。 「食品と接触することを意図した塗装及び被膜中におけるビスフェノールAの使用並びにプラスチック製の食品接触材料中におけるビスフェノールAの使用に関して規則 No10/2011/EUを改訂する規則」(Regulation 2018/213/EU)2) では、ビスフェノールAの食品中への移行量が(食品疑似溶媒での試験で測定して)0.05mg/kg以下に規定されています。

また、「乳児用プラスチック製哺乳瓶におけるビスフェノールAの使用制限に関して規則No10/2011/EUを改正する規則」(Regulation 321/2011/EU)3) で、哺乳瓶や3歳未満の乳幼児用のカップ、ボトルに使用することが禁止されています。 さらに「玩具指令」(Directive 2009/48/EC:改訂2017/898/EU)4) の附属書Ⅱ付録Cで、3歳未満の乳幼児対象または口に入れることを目的とした玩具に対して、水への移行量が0.04mg/L以下に規定されています。


2024年2月には、食品接触材料中のビスフェノールAやその他のビスフェノール類に対する新たな規制案が提案されました。5) 2023年4月の欧州食品安全機関(EFSA)の意見に基づき、食品に接触するプラスチック、ワニス、コーティング剤、印刷インキ、接着剤、イオン交換樹脂、ゴムの製造のいかなる段階においてもフェノールAを使用すること、およびフェノールAを使用した食品接触材料およびこれらの材料の全部または一部を使用した成形品を上市することを禁止するものです。

以上のように、ビスフェノールAはEUにおいて種々の規制があり、また新たな規制の提案がなされているため、その使用に関しては注意が必要になります。


【参考資料】

1) Restriction proposal for bisphenols withdrawn


2) REGULATION (EU) 2018/213


3) REGULATION (EU) No 321/2011


4) DIRECTIVE (EU) 2017/898


5) Food safety – restrictions on bisphenol A (BPA) and other bisphenols in food contact materials

閲覧数:305回

最新記事

すべて表示

EU/WEEE指令改正の考察

2024年04月26日更新 欧州委員会(European Commission:EC)は、2024年3月19日付で廃電気電子機器指令(2012/19/EU)(Directive on Waste Electrical and Electric Equipment:WEEE指令)を一部改正する指令((EU)2024/884)を官報公示し1)、2025年10月9日までに加盟国国内法に反映するよう求めま

自動車に使用される物質のデータベースについて―IMDSとGADSL

2024年04月19日更新 はじめに 自動車産業は全世界的にも規模が非常に大きく、構成する部品点数も膨大で、使用される物質も多岐にわたります。 したがって、自動車に有害物質が使用されていると、その製造、使用から廃棄に至るまでのライフサイクルにおいて地球環境に重大な影響を与えます。 環境負荷低減のためには、物質の適切な選択と使用が重要です。 これを実現していくための全世界的な自動車業界側での取り組み

中国の環境・化学物質規制法の動向

2024年04月19日更新 中国の環境や化学物質関連規制法が最近急速に動いています。この動向を整理してみます。 1.中国の環境基本政策 中国の中長期計画は19部65章の構成される「国家経済社会開発第14次5カ年計画及び2035年ビジョン」(*1)があり、2021年3月12日に約150ページの概要が公表されています。 冒頭で、「第14次5カ年計画」期間は、我が国があらゆる面で小康社会(注:完全ではな

bottom of page