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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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EU/WEEE指令改正の考察

2024年04月26日更新

欧州委員会(European Commission:EC)は、2024年3月19日付で廃電気電子機器指令(2012/19/EU)(Directive on Waste Electrical and Electric Equipment:WEEE指令)を一部改正する指令((EU)2024/884)を官報公示し1)、2025年10月9日までに加盟国国内法に反映するよう求めました。


本改正案は、2023年4月4日までパブリックコメント(パブコメ)を受け付けていました。2)


改正案の背景と内容については、2023年3月17日の本コラム「廃電気電子機器指令(WEEE指令)修正案の意見募集が開始されました。」3)に詳しく解説されています。 今回の正式改正の内容は、改正案から大きな変更がありませんので、重複はなるべく避けたいと思います。


このコラムでは、改正に至った経緯と背景を深掘りすることにより、EUの「指令」についてその性格を理解し、また欧州連合司法裁判所の機能について理解する助けになることを期待しています。


1.改正の概要

1.1.改正の背景

今回の改正の発端は、欧州連合司法裁判所が2022年1月25日に「廃電気電子機器(WEEE)に関する2012年7月4日付欧州議会および理事会指令2012/19/EUの第13条第1項は、2005年8月13日から2012年8月13日の間に上市された太陽光発電パネルの廃棄物管理に関する費用を拠出する義務を生産者に課す限りにおいて無効である。」という判決を出したことです4)。 ECは、この判決にWEEE指令を適合させるために今回の改正を行いました。


なおこの第13条第1項とは、一般家庭以外からのWEEE処理に関する資金を生産者に拠出させることを規定したものです。


1.2.改正内容

改正内容は以下の5項目です。

(1)第24条の後に第24a条を挿入

第24a条は、2026年12月31日までに現行WEEE指令改正の必要性を評価し、必要であれば抜本的に見直して新しい法令案を提示することを求めています。

検討項目として、(a)法的確実性の原則を保証する規定、(b) 廃棄物ヒエラルキーの実施を確保する規定、(c)「汚染者負担」の原則、(d)適切な回収目標と違法取引防止、(e)「太陽光発電パネル」の新しいEEEカテゴリーを創設し耐用年数に基づく回収目標設定、(f)生産者が破綻・清算の場合に太陽光発電パネル廃棄物健全処分の財政的保証、の6項目を提示しています。


(2)第12条(一般家庭からのWEEE処理に関する資金)の改正

(a) 第1項の置き換え:生産者が個人家庭からの廃棄物の健全な処分のための資金提供をする対象を次のように明確にしました。以下の(b)は、直接的に判決を反映したものです。

(a)附属書Ⅰに規定されるカテゴリーに属するEEEで、太陽光発電パネル以外の廃棄物は、2005年8月13日以降に上市されたもの

(b)太陽光発電パネル廃棄物は、パネルが2012年8月13日以降に上市されたもの

(c)附属書Ⅲに規定されるすべてのEEE(オープンスコープ)廃棄物は、2018年8月15日以降に上市されたもの


(b) 第3項において、生産者が資金提供する義務がある対象を、旧指令第3項の冒頭から「2005 年 8 月 13 日以降に市場に投入された製品について」を削除することにより、改正後の上記第1項で対象とする廃棄物に限定しました。


(c) 第4項の置き換え:2005年8月13日以前に上市された廃棄物(「歴史的廃棄物」)すべてを対象としていた適正処理費用の負担規定から、太陽光パネルを除外し、第2条(1)の(a)に言及する製品に限定しました。


(3)第13条(一般家庭以外からのWEEE処理に関する資金)第1項の改正

第12条第1項と合わせる形で、同様に生産者が資金提供をする対象製品を明確にしています。


(4)第14条(使用者向け情報)第4項の改正

使用者向け情報の規格をEN50419:2006から最新のEN50419:2022へ変更する改正です。この規格は、いわゆるゴミ箱マークの規格です。


(5)第15条(処理施設の情報)第2項の改正

WEEE処理施設情報提供の規格を最新のEN50419:2022へ変更する改正と、情報提供義務が太陽光発電パネルに関しては2012年8月13日以降に上市された製品、オープンスコープ製品に関しては2018年8月15日以降上市された製品に限定する条文が追加になっています。


なお、加盟国は2025年10月9日までに本変更を遵守するための国内法を発効させて、ECに通知しなければなりません。


2.改正内容の考察

改正の概要で述べましたように、今回の改正の発端は、欧州連合司法裁判所の判決です。 判決内容は、前述のように「一般家庭から以外の太陽光発電パネル」のみに関してWEEE第13条第1項が2012年8月13日以前のパネルに適用していることが無効であるとの判断です。ところが、今回の改正は「一般家庭から以外の太陽光発電パネル」のみならず「一般家庭からの太陽光発電パネル」及び「オープンスコープEEE」も対象になっています。

この差は何を意味するのでしょうか。


2.1.欧州連合司法裁判所の機能と判決

・欧州連合司法裁判所の機能

欧州連合司法裁判所(Court of Justice of the European Union:CJEU)は、EU法が すべてのEU加盟国で同じように適用されるように解釈し、各国政府とEU機関の間の法的紛争を解決する機関とされています。5)


・訴訟請求内容

そもそもこの裁判の請求は、チェコ共和国で太陽光発電所を運営する事業者であるVYSOČINA WIND a.s.社(VW社)とチェコ共和国環境省(Ministrystvo životního prostředí:環境省)との間で、指令2012/19の不正確な適用により同社が被ったとされる損害に関して同社がチェコ地方裁判所に提起した賠償請求に関する訴訟手続きにおいて行われました。


具体的には、VW社は2005年8月13日以降2013年1月1日以前に上市された太陽光発電パネルを用いて、2009年から太陽光発電所を運営しているパネル使用者です。


VW社は、チェコの廃棄物管理に関する法律に基づいて2015年と2016年に将来の処理費用として約59,500ユーロを拠出金として支払いました。


VW社は、このチェコの法律は2005年8月13日以降に上市されたパネルからの廃棄物処理の費用は生産者が拠出することを規定した指令2012/19に違反しており、損害を受けたというものでした。


チェコ地方裁判所は、VW社の主張を全面的に認め、環境省がチェコ最高裁判所(最高裁判所)に上訴したところ、最高裁判所が指令2012/19第13条第1項の解釈と有効性について以下の二つの質問をCJEUに付託して予備判決を求めたものでした。


(1) 指令2012/19第13条は、加盟国が2013年1月1日までに上市された太陽光発電パネルに由来するWEEEの回収、処理、再利用、環境に配慮した廃棄の費用を、その生産者ではなく使用者に出資する義務を課すことを妨げると解釈しなければならないのか。


(2) 最初の質問が肯定的である場合、そもそもこの指令は、太陽光発電パネルを新たにEU規制の範囲に含め、同指令の施行期間開始前(およびEUレベルでの規制の採択前)に市場に出されたパネルを含め、生産者に費用負担義務を課したものである。これが問題ないと仮定して、同司令違反によって個人に生じた損害に対する加盟国の賠償責任の適用条件の評価は、加盟国自身が指令2012/19の採択前に太陽光発電パネルからの廃棄物の資金調達方法を規制していたという事実(本案では,チェコは同司令の採択前に独自の法律を施行していたので、この事実が該当する)に影響されるのであろうか。


・判決全文

1.廃電気電子機器(WEEE)に関する2012年7月4日付欧州議会および理事会指令2012/19/EUの第13条1項は、2005年8月13日から2012年8月13日の間に上市された太陽光発電パネルの廃棄物管理に関する費用を拠出する義務を生産者に課す限りにおいて無効である。


指令2012/19の第13条1項は、同指令の発効日である2012年8月13日以降に上市された当該パネルの廃棄物管理に関する費用を拠出する義務を、当該パネルの生産者ではなく、太陽光発電パネルの使用者に課す国内法を排除するものと解釈されなければならない。


2.EU法は、指令がEU法秩序の一部を形成する前に、指令が規定する結果の達成が深刻に損なわれたとみなすことはできないため、加盟国が指令の採択前にEU指令に反する法律を採択したこと自体は、EU法違反を構成しないことを意味すると解釈されなければならない。


2.2.考察

以上の経緯と判決から明らかになったことは以下です。

(1) 指令は、発効前に遡及的に適用することはできない。

(2) 指令発効後は、これに反する国内法を排除する。

(3) 加盟国が指令採択前に指令に反する国内法を採択することは、指令のめざす結果達成に深刻な影響を与えない限り、EU法違反とはならない。


したがって、ECは上記(1)を受けて2012/19の全面的見直しを行い、第13条のみならず第12条及び第15条における遡及的適用に関する問題を改正により解消したものです。


また、判決文の解説の中で、CJEUは以下のことを明らかにしています。

(1) 求めているEU法の解釈が本案訴訟の実際の事実やその目的とは無関係であることが極めて明白である場合、問題が仮定のものである場合、または裁判所が提出された質問に対して有益な回答を与えるために必要な事実上または法律上の資料を持ち合わせていない場合に限り、国内裁判所が予備的判断のために付託した質問に対する裁定を拒否することができる。

(2) EU法の下では以下の3つの条件が満たされる場合に、損害を受けた者に対して賠償請求権が付与される:

・侵害された法規則が個人に権利を付与することを意図したものであること。

・違反が十分に重大であること。

・加盟国に課せられた義務違反と損害を被った当事者が被った損害との間に直接的な関連性があること。


3.まとめ

今回は、WEEE指令改正とそれに大きな影響を与えた欧州連合司法裁判所の判決について考察することにより、指令と国内法の関係、及び欧州連合司法裁判所の機能について、その一部を見て参りました。


普段あまり表に見えてこないこの二つについて、理解を深める一助となればと思います。


(杉浦 順)


参考文献:

1) WEEE指令を一部改正する指令((EU)2024/884)


2) 改正案のパブリックコメント受付


3) WEEE指令改正案のコラム


4) 欧州連合司法裁判所2022年1月25日付判決


5) 欧州連合司法裁判所の機能

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