top of page

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

Q615.電池規則への改正による追加義務について

2022年02月11日更新

【質問】

当社はリチウム電池を組み込んだ機器をEUに輸出しています。 電池指令が電池規則に改正されると聞きました。 改正に際して当社は具体的に何をすれば良いのでしょうか。追加で行うことがありましら教えて下さい。

 

【回答】

2020年12月10日付で電池指令((EC)2006/66)(1)に代わる新電池規則案(COM(2020) 798)(2)が告示されました。 EUにおける指令(Directive)とは、規制内容の統一(調整)を目的とし、全ての加盟国を対象に各国が国内法に置き換えて法的拘束力を及ぼすものですが、規則(Rule)は、全ての加盟国に直接適用され、加盟国の国内法に優先して、適用されるものとなります。


新電池規則案は150ページを超える膨大なものです。 この規則案は、「欧州グリーンディール」(3)で2050年までの気候中立(温室効果ガスの排出実質ゼロ)を掲げる欧州委の「新循環経済行動計画」(4)の取り組みのひとつであり、「EU新産業戦略」(5)や「持続可能でスマートなモビリティ戦略」(6)とも関連していることが説明覚書や前文に記述されています。


対象の電池については「他の製品に組み込まれた電池にも適用されます」(第1章第1条2項)とありますので、ご質問のケースも該当します。 また、禁止物質については、従来の電池指令と同様の禁止物質(第1章第6条および附属書I)に加えREACH規則の制限物質(REACH規則附属書XVII)についても遵守するよう新たに記載されましたが実質的には変化はありません。 しかし、製造者に対して以下のように様々な義務が追加されています。


第2章 持続可能性と安全性の要件

第7条 電気自動車用の電池および二次電池の二酸化炭素排出量


電気自動車用電池及び充電式産業用電池はカーボフットプリント宣言を含む技術文書を添付しなければいけません。

・製造者や製造工場の情報、バッテリーとそのライフサイクルの各段階での二酸化炭素(CO2)総排出量、独立した第三者検証機関の証明書などを含む、カーボンフットプリントの申告(2024年7月1日から)。

・ライフサイクル全体でのCO2排出量の大小の識別を容易にするための性能分類(performance class)の表示(2026年1月1日から)。

・ライフサイクル全体でのカーボンフットプリントの上限値の導入(2027年7月1日から)。


カーボンフットプリントの計算方法については附属書2に記載されています。


第8条 産業用電池、電気自動車用電池、自動車用電池のリサイクルコンテンツ

コバルト、鉛、リチウム、ニッケルを含む2kW以上のEVバッテリー、産業用バッテリー、自動車蓄電池に関しては、次の点などが義務化されます。


・これらの原材料のうち再利用された原材料の使用量の開示(2027年1月1日から)。

・再利用された同原材料のそれぞれの使用割合の最低値の導入(2030年1月1日から)コバルト12%、鉛85%、リチウム4%、ニッケル4%

・再利用された同原材料のそれぞれの使用割合の最低値の変更(2035年1月1日から)コバルト20%、鉛85%、リチウム10%、ニッケル12% 


リチウムは上記のようにリサイクル管理対象物質に含まれており、EUではcritical raw materialと位置づけられています。


第4章 電池の適合性

適合性評価を行い、EU適合宣言を行った上で、CEマーキングを貼付することが第17~20条に記載されています。 適合性評価手順については附属書8に記載されており、以下のように2区分に分かれています。 Part Aでは内部生産管理手続き、Part Bは内部生産管理手続きに加えNotified Bodyによる製品審査が必要です。


Part A.決定(EC)768/2008のモジュールA(内部生産管理手続)

・第6 条 有害物質の規制

・第9 条 一般用途の携帯型電池に関する性能および耐久性要件

・第10 条 充電可能な産業用電池および電気自動車用電池に関する性能および耐久性要件

・第11 条 携帯型電池の取り外し可能性および代替可能性

・第12 条 定置型電池エネルギー貯蔵システム

・第13 条 電池のラベル表示

・第14 条 電池の健全性および期待寿命に関する情報


Part B.決定(EC)768/2008のモジュールA1(内部生産管理手続き及び監督下の製品試験)

・第7 条 電気自動車および充電可能な産業用電池のカーボンフットプリント

・第8 条 産業用電池、電気自動車用電池および自動車用電池におけるリサイクル材料の含有量

・第39 条 サプライチェーン・デューデリジェンス方針を創設し、2kWh を超えた容量を持つ内部ストレージ付きの充電可能な産業用電池や電気自動車用電池を上市する経済事業者に関する義務


第7章 電池の終末期管理

製造者のコンプライアンスを監視する目的で製造者は登録が義務づけられます(第46条)。 製造者には回収義務などの製造者責任が課されます(第48,49条)。


この規則案は今後欧州委員会で委任立法され、欧州理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議されることになります。 原案から多少の変更の可能性はありますが、製造者への義務が大きく増加していますので立法、施行までに準備を進めておくことが肝要です。 2021年12月に検討状況の報告書(7)が提出されましたのでこちらも参考にしてください。


(参考リンク)

(1)電池指令


(2)電池規則案


(3)欧州グリーンディール


(4)新循環経済行動計画


(5)EU新産業戦略


(6)持続可能でスマートなモビリティ戦略


(7)電池規則案のProgress Report


閲覧数:3,478回

最新記事

すべて表示

Q643.EU RoHS指令におけるPack27とPack22について

2024年04月12日更新 【質問】 EU RoHS指令でPack27のパブコメが行なわれました。 Pack22と重複しているようですが、Pack22は廃案になるのでしょうか。 ご教示ください。 【回答】 Pack27にはPack22の内容も一部重複していますが、Pack22の内容が全て破棄されるわけではありません。 RoHS(Ⅱ)指令1)において適用除外用途については、それぞれ有効期限が決められ

Q642.台湾電池規制に関する認可番号の取得について

【質問】 乾電池、ボタン電池を内蔵した産業用機械を台湾に輸入しようとしています。この電池が規制対象の電池の場合、この電池についてカドミウム、水銀の含有が無いデータを添えて、台湾当局に申請をして認可番号を取得する必要があるでしょうか? 【回答】 台湾では、「乾電池の製造、輸入、販売の制限」公告により1)、対象となる電池は、ご質問のように装置に組み込んで同梱する場合も含めて、指定分析機関での水銀及びカ

Q642.フランスのポリスチレン包装材の禁止法

2023年12月01日更新 【質問】 ポリスチレン包装材がフランスで禁止されると聞きました。 発泡スチロール容器も対象でしょうか。 【回答】 フランスの発泡スチロール容器の使用規制は「リサイクルできない」という条件があります。 貴社の販売方法などのビジネスモデルにより規制対象の該否が分かれます。 以下、規制内容をご紹介します。 §1 ポリスチレン包装材の規制 フランスのポリスチレン包装材は、環境コ

bottom of page