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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

アセトンの光と陰

2024年01月19日更新

1.アセトンはどんな物質

アセトン(acetone) (CAS RN: 67-64-1)は脂肪族ケトンの一種で、下図のようにケトンの中では最も簡単な構造を持っています。(*1)

図1 アセトンの構造


別名として、「ジメチルホルムアルデヒド(Dimethylformaldehyde))、「ジメチルケトン (Dimethyl ketone))、「2-プロパノン(2-Propanone)」などとも呼ばれています。一般には、マニュキュアを落とす「リムーバ」と言ったほうが馴染みあるかもしれません。


特有の刺激臭を持つ揮発性、引火性のある無色の液体です。分子が小さいため、水、エタノール、エーテル、クロロホルムに自由に混和する溶解性を持ちます。


2.アセトンの利用

一般生活では、マニュキュアを落とすリムーバ(除光液)が有名だと思います。しかしその油脂を溶かす性質上、手の油も一緒に溶かして落としてしまうので、皮膚が乾燥しやすいという欠点があります。 最近では肌にやさしい保湿成分入りや、香り付きのものなどさまざまな種類が商品化されているようです。


また、車やバイクのオイル汚れなどを落とすために、アセトンが使用されることがあります。 化学実験として実験器具などの洗浄に使用されたり、水と混ざらない溶剤を混ぜる際に使用されたりもします。 さらに、常温での速乾性を活かして、塗料、接着剤等の溶媒としても広く使用されています。


その他、合成樹脂、ゴム、油脂など、その用途は多岐にわたり、非常に身近な化学物質と言えます。


3.アセトンの物性と危険・有害性

アセトンの主な物性は以下の通りです。(*1)

1)融点:-95℃~-94℃ 2)沸点:56.5℃

3)引火点:-20℃ 4)爆発範囲:下限 2.2vol%、上限 13vol%

5)蒸気圧:239.5hPa(20℃) 6)蒸気密度(空気 = 1):2.0g/cm^3

7)比重(密度):0.788(25/25℃) 8)オクタノール/水分配係数:log Pow = -0.24

9)自然発火温度:540℃


安定性としては、日光や空気にさらされると過酸化物質を生成し爆発性となります。 アセトンの入っている容器は、-9℃~15℃付近の温度で爆発性混合気を生成します。危険有害性としては、無水クロム酸、過塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム、過酸化水素、硝酸、硝酸アンモニウムなど強酸化剤と激しく反応し、火災、爆発の危険性をもたらします。 また塩酸の存在下、アセトンにクロロホルムを加えると高い発熱反応を起こします。


このように危険性のほうが重視されていますが、有害性の面では、アセトンの蒸気は、眼、気道を刺激し、中枢神経系、肝臓、腎臓、胃に影響を与え、意識喪失を起こすことがあるとされています。 また、多量の吸入により眼、喉の刺激、不快感、頭痛、吐気、知覚麻痺、血圧低下、呼吸速度の上昇と不規則が報告されており、取り扱う場合には注意が必要です。


前途のように、アセトンの引火点は-20℃と、常温でも引火します。更に揮発性も高いので、使用時は必ず換気をして、火気がないことを確認してから使用する必要があります。

このような危険・有害性から、アセトンに起因する災害は、以下のような事例が報告されています。


1) 葉緑素を抽出する工程で、抽出缶に蚕糞とアセトンを入れ、蒸気を吹き込んで加熱(70~80℃)させたところ、弁の誤操作のためアセトン蒸気が缶外に漏れ、引火した。

2) 電気機械製造工場において、シリコン板の脱脂作業をしていた作業者が異臭を感じ点検のため、アセトン廃液回収缶(18L)の栓に手を触れたところ、缶が破裂、引火した。このため作業者は全身に火傷を負った。

3) 真空ポンプをアセトンで洗浄していたところ、アセトン蒸気を吸入し、頭痛、めまいを起こした。

4) 合板表面の樹脂加工作業中、発散した樹脂溶剤のアセトンが空調不調により室内に充満し、2名が頭痛、めまいなどの中毒症状を起こした。


その他、「職場のあんぜんサイト」の化学物質による災害事例(*2)も参照になります。


4.アセトンの法規制

最近ではネットショップを個人事業として営んでいる方も増加しています。 日本をはじめ主要国ではアセトンの使用に関して禁止や制限はないものの、リムーバのようなアセトン関連商品を取り扱う場合において、その入荷、出荷取引に係る輸送や倉庫保管において下記のような関連法令に対応するよう注意が必要です。


消防法では「第4類引火性液体、第一石油類水溶性液体」、船舶安全法では「引火性液体類」、航空法では「引火性液体」に指定されています。


国際的には国連番号1090(UN NO.1090)に指定され、航空機による輸送には規制が定められています。 また、船による海上輸送にも航空機とは別の規制が定められており、注意が必要です。日本国内においては、「航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示(*5)」等で容器、包装の方法、品名、分類、積載方法等について規定されています。


また、労働安全衛生法関係ではラベル表示・SDS等による通知の義務対象物質(ラベル裾切値1%、SDS裾切値0.1%、)に指定されていると同時に、有機溶剤中毒予防規則で第2種有機溶剤に指定されています。 したがって、業務で取り扱う場合にはリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいて労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にしなければなりません。


【参考文献】

*1 アセトンのSDS(職場のあんぜんサイト SDSより)


*2 「職場のあんぜんサイト」化学物質による災害事例


*3 航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示

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