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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

SF6の光と陰

2024年03月25日更新

1. SF6とは

SF6(六フッ化硫黄)は、硫黄の六フッ化物で、1つの硫黄原子を中心に6つのフッ素原子が対称に配置された正八面体構造をとっています。 硫黄と同じ第16族のセレン、テルルの六フッ化物である六フッ化セレン、六フッ化テルルが有毒で悪臭を有する気体であるのに対して、SF6は無毒無臭の気体です。



2. 社会経済的便益

SF6は、化学的に安定であり、高い絶縁性能を有していることから、ガス変圧器、ガス遮断器、ガス絶縁開閉装置などの電力機器における絶縁ガスや消弧(電流を遮断するとき接触子間に生じるアークを消す)媒体として1960年代から利用されてきました。


また、SF6は、マグネシウムの溶解工程において、溶融マグネシウムの酸化に伴う発火や燃焼を防ぐ目的とした保護ガスや、半導体表面に膜を形成するCVD装置のチャンバー内壁に生成した膜のクリーニング工程、形成した膜の一部を削除するドライエッチング工程などの半導体製造プロセスにおいても利用されています。 さらには、網膜硝子体疾患の治療に必須の眼内長期滞留ガスとしても使用されています。


3. 人の健康または環境へのリスク

日本では、SF6は平成21年度に実施された「国によるGHS分類」(*1)において「高圧液化ガス」、「特定標的臓器毒性(単回ばく露):区分3(麻酔作用)」と分類され、平成30年度に実施された見直し(*2)では、不燃性ガスから酸化性ガスに再分類されました。 一方、EUでは、CLP規則に基づく「調和化された分類及び表示(CLH)」は決定されていませんが、SF6はREACH規則の登録における「C&Lインベントリー」(*3)において「高圧液化ガス」「特定標的臓器毒性(単回ばく露):区分3(麻酔作用)」の分類が多く届出されています。


以上のように、日本とEUでは、SF6の危険有害性は高くないと分類されていますが、2021年8月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(*4)及び補足資料(*5)によると、SF6はオゾン層を破壊しないものの、100年間で比較したときの地球温暖化係数(GWP-100)が24,300、大気中での寿命が1,000年と非常に大きな値となっており、環境への負荷が高いことがわかります。 また、1970年には0.03pptであった大気中のSF6濃度(*6)は、2019年には10.0pptまで増加しており、近年急激に増加していることも示されています。


4. 規制法の動向

SF6は、1997年12月に京都で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された京都議定書(*7)において、温室効果ガスの一つに指定されました。

京都議定書の目的は、2008年から2012年までの期間中(第一約束期間)に締約国全体の温室効果ガス6種類の合計排出量を1990年比で5%削減することにあり、各締約国に対しては温室効果ガス6種類の排出量がそれぞれ定められた割当量を超えないよう削減することが求められました。


日本では、1998年10月に公布された「地球温暖化対策の推進に関する法律」(*8)においてSF6を温室効果ガスの一つに指定し、1999年10月に公布された「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令」(*9)においてSF6の製造やマグネシウム合金の鋳造等を行う事業者に対して、一定量のSF6を排出する場合にはその排出量を算定して報告することを義務付けました。 EUでは、2006年6月に公布された「(EC) No 842/2006 フッ素系温室効果ガス(Fガス)規則」(*10)においてSF6をフッ素系温室効果ガスの一つに指定し、マグネシウムダイキャスト及びマグネシウムダイキャスト合金のリサイクルや車両タイヤの充填のためにSF6を利用することを禁止しました。


その結果、京都議定書の第一約束期間における温室効果ガスの排出量は、日本が8.4%削減(目標:6%削減)、EUが12.3%削減(目標:8%削減)を達成し、また締約国の多くも目標を達成したことが示されました(*11)。


2020年以降の気候変動対策としては、2015年にパリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定(*12)に引き継がれました。 日本は2030年までに2013年比で温室効果ガス排出量を26%削減、EUは2030年までに1990年比で40%、2013年比で24%削減する目標をそれぞれ掲げ、国内法の整備を進めています。


5. 代替材とリスクトレードオフ

近年、さまざまなSF6の代替材が開発されてきています。マグネシウムの保護ガスとしては、HFO-1234zeなどの低地球温暖化係数のフルオロカーボン系ガスに代替が進んでいます。 また、電力機器における絶縁ガスとしては、ペルフルオロイソブチロニトリル(F-ニトリル)やヘプタフルオロイソプロピルトリフルオロメチルケトン(F-ケトン)といった新たなフッ素系ガスとCO2、O2ガスとを混合して使用する技術や、真空遮断器を用いて絶縁媒体を自然由来のN2、O2、CO2ガスとした脱フッ素系ガスの技術も開発されています。


一方、前述したフッ素系ガスは、日本の「国によるGHS分類」では特定されておらず、EUの「C&Lインベントリー」でも十分なデータがなく、危険有害性情報があまり知られていない状況です。 また、代替材は、環境への負荷は低いものの、絶縁性能はSF6よりも低いため、高電圧機種の開発や機器体積の大型化といった課題があります。 IPCC第6次評価報告書においても、電気設備のSF6代替やSF6フリーが利用できるようになったが、SF6は依然として電気開閉装置に広く使用されている、としています。


代替化が難しい分野では、引き続きSF6を使用する必要はあると思いますが、高い温室効果を有するSF6を適切に管理し、大気中への排出を最小限に抑制することが企業の責任ある行動として求められています。















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