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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

PBDE/DBDPEの光と陰

2024年04月19日更新

1. PBDE/DBDPEとは

PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテルPolybrominated diphenyl ethers)は、ジフェニルエーテルの水素原子を1から10の臭素原子で置換した化合物の総称です(図1-1)。

また、DBDPE(デカブロモジフェニルエタンDecabromodiphenyl Ethane)はPBDEと似た構造ですが、フェニル基間のエーテル結合がエチレン基で結合しています(図1-2)。



2. 社会経済的便益

ブラウン管テレビの筐体に代表される家電製品などにポリスチレン、ポリオレフィン類などの高分子材料が広く使用されるようになると、機器の加熱や短絡による火災が発生しやすくなったため、高分子材料の難燃化が課題となりました。 その対策の一つとしてPBDEなどの臭素系難燃剤が開発されました。臭素系難燃剤は、三酸化二アンチモンなどの無機系難燃剤と併用することで優れた難燃効果を発揮し、難燃化が難しい製品においても安定的にUL94規格V-0や5Vグレードを達成するなど広範囲な用途で使用されてきました。(*1)  主な用途は、電気電子機器や自動車の部品、クッション材などの家具、断熱材などの建築資材、繊維製品、薄膜フィルムなどです。


DBDPEは、PBDEの代替材として同様の用途に使用されています。


3. 人の健康または環境へのリスク

PBDEは一般的に水に溶けにくく安定した化学構造です。そのため、環境中で分解されにくく生態系への影響が懸念されています。 PBDEの中で多く使用されている臭素原子数が10のDecaBDE(Decabromodiphenyl ether CASRN 1163-19-5)に対する日本の「国によるGHS分類」及びCLP規則に基づく「調和化された分類及び表示(CLH)」の評価結果は以下の表のとおりとなっています。


また、DBDPEに対しては、以下の表のとおりとなっています。


4. 規制法の動向

電気電子製品で多用されていたPBDEは、PBT特性を有することから、2002年にRoHS指令で禁止物質に指定されました。 現在までに臭素原子数1から10のPBDEが禁止物質に指定されています。 中国、韓国など他の国においても電気電子製品でのPBDEに対する規制が施行されています。


また、ストックホルム条約においても2009年第4回(COP4)締約国会議にて、臭素原子数が4から7のPBDEが附属書A(廃絶対象)に追加されました。 さらに、2015年第8回(COP8)締約国会議においてDecaBDEが附属書A(廃絶対象)に追加されました。 日本では、COP4とCOP8での追加に対応して、臭素原子数が4から7のPBDE及びDecaBDEが化審法第一種特定化学物質に指定され、すでに国内での製造、使用及び一部の用途での輸入が禁止されています。 EUではPOPs規則附属書Aへの追加に合わせた対応がされています。


カナダでは、PBDEの代替材として使用されるDBDPEの難分解性に注目して、カナダ環境保護法(Canadian Environmental Protection Act, 1999)の有害物質リストへのDBDPEの追加が提案されました。(*6)  DBDPEを含む製品の製造、輸入、使用販売が禁止されることになり、早ければ2024年夏の施行が見込まれます。(*7)  なお、カナダ以外の国や地域では、DBDPEは規制されていない状況です。


5. 代替材とリスクトレードオフ

PBDEの規制強化に伴い、DBDPEなど他の臭素系難燃剤への代替や、塩素系難燃剤(SCCP、MCCP、デクロランプラスなど)など脱臭素化の取組みが進められています。

DBDPEはPBDE同様に高い難燃効果を示すことから代替材のひとつとして使用されていますが、カナダでは規制の検討が進められています。 また、EUでは2023年3月に難燃剤に関する規制戦略を発表し、EU域内での芳香族臭素系難燃剤を規制対象候補として評価を開始し(*8)、対象となる50物質に対する調査報告書に関する証拠の募集が2024年4月まで実施されました。(*9)


また、脱臭素化の取組みとして進められている塩素系難燃剤ですが、2024年3月1日公開のよもやま話で紹介したように、こちらも規制が強化されています。(*10)

一方、代替材によるリスクのひとつに、難燃性の低下による火災発生の増加が挙げられます。 臭素系難燃剤と三酸化二アンチモンなどの無機系難燃剤と併用することで発揮される優れた難燃効果は、前述したような代替材では難しいと言われており、取扱時の火災のリスクが高まる可能性があります。


PFOSからPFASへ、PBDEからDBDPEへと規制範囲を拡大する取り組みのように、健康や環境へのリスクが明らかとなり規制対象となった物質から、類似物質へ対象を拡大させる動きは、「残念な代替(規制された物質と同様のリスクを有する物質への代替)」を防ぐために今後も強化されることが想定されます。 類似物質への代替にあたっては、性能や品質などの機能面を確保するとともに、今後の規制対象となる可能性も考慮する必要があると言えます。


【参考文献】

*1 臭素系難燃剤(西澤仁 日本ゴム協会誌(2019)92(6) pp 211-2174


*2 NITE 政府によるデカブロモジフェニルエーテルのGHS分類結果


*3 ECHA Substance Infocard(Bis(pentabromophenyl) ether)


*4 NITE CHRIPでの情報(デカブロモジフェニルエタン)

https://www.nite.go.jp/chem/ghs/all_fy.html からCASRN 84852-53-9で検索


*5 ECHA Substance Infocard(1,1'-(ethane-1,2-diyl)bis[pentabromobenzene])


*6 カナダ環境保護法の有害物質リストへDBDPEの追加


*7 カナダ2022年特定有害物質禁止規則案(Prohibition of Certain Toxic Substances Regulations, 2022) WTO通報


*8 EU 難燃剤戦略


*9 芳香族臭素系難燃剤の調査報告書に関する証拠の募集(Call for evidence)


*10 よもやま話 塩素化パラフィン類の光と陰

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