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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

米国TSCAのPIP(3:1)規制改正案

執筆者の写真: tkk-labtkk-lab

2024年02月16日更新

2024年1月19日付本コラム「米国TSCAのDecaBDE規制改正案」1) に引き続き、今回は同時に提案されたPIP(3:1)規制改正案について説明をします。


本改正案(改正案)2)も2024年1月8日までパブリックコメント(パブコメ)を受け付けていました。3)


PIP(3:1)は、PBT規制法公布後の事業者からのクレームにより度々修正が行われ、その都度本コラムで経緯を説明してきました。4)5)6)7)

最終的に、PIP(3:1)を用いた成形品に関する義務は、2024年10月31日まで適用が延期されているのが現状です。


1.改正案の概要

1.1.改正案提出の背景

PIP(3:1)の規制に関しては、PBT規制法公布後になってから、既存のサプライチェーンに与える影響が非常に大きなものであるという関係業界からのクレームを多く受け取り、影響を最小限にするために最小限の適用除外用途の追加や適用時期の延期など修正を繰り返してきました。 一方で、このような修正によるヒト及び環境に与える影響を懸念するコメントも多く、TSCA Section 2605 (h)(4)の「実行可能な範囲でばく露を低減するべきである」8) という義務を果たすことが求められています。


また、TSCA Section 2601 (b)(3)では、「技術革新を不当に妨げない、または不必要な経済的障壁を作らない」8) 方法で規制が行われることを求めています。


今回の改正案は、この両者のバランスを見直すために行われたものであり、2021年10月のPIP(3:1)規制適用再延期9) の際に「将来のPBTのルールを作成する活動として、PIP(3:1)以外の4つの物質(2,4,6-TTBP, DecaBDE, PCTP, HCBD)を含む新しい規則制定を検討開始する予定であり、2023年に提案を発表予定」としていたものです。


1.2.PIP(3:1)改正案概要(40CFR751.407)10)

PIP(3:1)に関しては、4項目の追加・変更が提案されています。

以下に各項目の概要とコメント依頼内容を概説します。


(1)既存の適用除外を変更及び追加(変更・追加)

EPAは、2021年1月のPIP (3:1)最終規則における適用除外の基礎となる決定を再検討し、実行可能な範囲でばく露を削減するというTSCA Section 2605の規定と同Section2601の技術的・経済的影響を不当に妨げないという目的に沿って、現在除外されている活動に対して新たな制限を採用するかどうかを検討しました。 検討の結果、除外項目の多くについて技術的に実現可能な代替手段がないか、サプライチェーンにおける PIP (3:1) を特定し、代替手段を研究して置き換える時間とコストが現実的ではないと判断しました。


結論として、最終規則で決定されたいくつかの適用除外項目を修正することを今回提案しています。 これらの修正案には、特定の適用除外の範囲を狭めること、禁止の段階的導入日を追加すること、場合によっては特定の用途について新たな適用除外を設けることが含まれます。

EPA は、これらの修正案の実現可能性についてコメントを求めています。

変更・追加提案項目を以下に示します。


(i)潤滑剤及びグリース

加工および商業流通に対する40 CFR751.407(b)(1)(ii)の適用除外範囲を狭めることを提案しています。

航空宇宙およびタービン用途に使用される潤滑油及びグリース(に使用されるPIP(3:1)、PIP(3:1)含有製品を含む)のみが適用除外用途となります。

自動車を含むその他のすべての用途に使用される潤滑油及びグリースは、商業的加工および流通は5年間の段階的禁止の対象となります。


(ii)自動車用の新品及び交換部品

新規および交換部品におけるPIP(3:1)およびPIP(3:1)含有製品の使用に対する40 CFR 751.407(b)(1)(iii)の既存の除外規定を廃止し、重機を含む新しい自動車に用いる部品に関しては、それに用いるPIP(3:1)の商業的加工・流通、PIP(3:1)を含む製品、含有部品及び含有部品を用いた重機を含む自動車の商業的製造、加工・流通は、15年以内に禁止することを提案しています。

なお、交換用部品に関しては、30年以内に禁止を提案しています。

ただし、(iv)として新たな適用除外対象となる PIP (3:1) を含む部品 (ワイヤー ハーネスや回路基板など) には適用されません。


(iii)航空宇宙車両用の新品及び交換部品

新規および交換部品におけるPIP(3:1)およびPIP(3:1)含有製品の使用に対する40 CFR 751.407(b)(1)(iii)の既存の除外規定を廃止し、航空宇宙車両に関しては、これを30年以内に始まる禁止に置き換えることを提案しています。

また、航空宇宙用車両の耐用年数終了後、PIP(3:1)を含む航空宇宙用車両(遵守期限が終了する前に製造が許可されている車両)の輸入、加工、商業流通を禁止することを提案しています。

なお、航空宇宙用車両に関しては、交換部品に関しても30年以内に禁止となります。

ただし、(iv)として新たな適用除外対象となる PIP (3:1) を含む部品 (ワイヤー ハーネスや回路基板など) には適用されません。


(iv)ワイヤーハーネスと回路基板

電線で使用するための PIP (3:1) および PIP (3:1) 含有製品の商業上の加工および流通を 40 CFR 751.407(b)(1)(iii)の禁止から新たに除外することを提案しています。

ワイヤーハーネスには、防衛から航空宇宙および自動車用途、医療に至るまで、さまざまな用途で使用される、端子およびヒューズのカバー、ケーブルスリーブ、ケーシング、コネクタ、テープ等を含む幅広い種類の物品が含まれることを提案しています。

回路基板への使用には、オーバーモールディング、ディップモールディング、インサートモールディング用途、またはコンフォーマルコーティングにおける樹脂としての使用なども含まれることを提案しています。


EPA は、ワイヤー ハーネスや回路基板で使用するための PIP (3:1) の潜在的な代替品の有無について、これらの製品や成形品が性能要件や自主規制の安全基準を満たす可能性についてコメントを求めています。


(v) 海洋防汚コーティング製品

新しい40 CFR 751.407(a)(2)(vii)で、FIFRA 登録海洋防汚剤に使用する PIP (3:1) の加工および配布の禁止に 5 年間の遵守期限を追加することを提案しています。 この新たな遵守期限の追加は国防総省専用のコーティング製品に限定されています。


(vi)製造装置及び半導体製造業

40 CFR 751.407(a)(2)(ix)を追加し、商業上の加工および流通に対する遵守期限を現行の2024年10月31日から2033年11月25日までに延長することを提案しています。

EPA は、この遵守期限延長の範囲と期間、および2024 年を超える期限延長の対象範囲が限定的であることについてコメントを求めています。


(2)PIP (3:1) の製造および加工中に防護具(Personal Protective Equipment:PPE)の装着を義務化(追加)


PIP (3:1) および特定の PIP (3:1) 含有製品および物品の国内製造および加工中に、吸入および皮膚用 PPE の着用を義務付けることを提案しています。


PPEの使用に関しての取扱規程、トレーニング、文書管理(5年間保管等)は、DecaBDEと共通です。


ただし、新しい 40 CFR 751.407(f)(8)(iii) に基づいて、PIP(3:1)が密閉された環境で使用される場合(例えば、シアノアクリレート接着剤を製造するための中間体として使用するための PIP (3:1) およびPIP (3:1)含有製品の加工)への適用は除外しています。


(3)シアノアクリレート接着剤の製造における中間加工助剤としての PIP (3:1) および PIP (3:1) 含有製品の加工には技術的管理を要求(追加)


新しい40 CFR 751.407(f)(6)で、中間加工助剤としての PIP (3:1) の加工に技術的管理を要求することを提案しています。


技術的管理とは具体的には、PIP (3:1) の加工が密閉された環境で行われなければならないことを提案しています。


EPAは、シアノアクリレート接着剤の製造における中間加工助剤としてのPIP(3:1)のすべての加工がこのタイプのシステムを使用するかどうか、およびシアノアクリレート接着剤業界が技術的管理を導入する実現可能性についてコメントを求めています。


(4)記録保管要件を 3 年から 5 年に延長し、記録を利用できるようにするための期間を削除(変更)


DecaBDEの対応と同じです。


ここで注意するべきは、「記録を利用できるようにするための期間を削除」した理由は、規定の緩和ではなく要求に対して即刻の対応をEPAが期待しての削除であることを付け加えておきます。


2.まとめ

PBT規制法は、TSCA Section 2605(h)を根拠法として作られていますので、リスク評価の優先順位を決定する際に「コストやその他の非リスク要因を考慮せずに」決めることができます。


一方で、TSCA Section2601では「技術・経済への不当な影響」を排除するという矛盾した要求があることも事実です。


EPAがPBT規制法制定前にパブコメを募集していたにもかかわらず、サプライチェーンに重大な影響を与えることを示すコメントのほとんどがPBT規制法公布後に提出されたことも混乱の重大な要因であり、関連業界関係者の怠慢の結果とも言えます。


結果として、パブコメを反映して今回の改正案でPIP(3:1)の使用禁止条件と期限に関して特定分野で大幅な緩和が提案されました。


一方で、労働者の保護のための防護具装着や使用環境管理などが明確化され、文書管理規定の変更が提案されています。


EPAは、今後今回の2物質以外の3物質についても同様な見直しを行い、労働者保護や文書管理規定などの整合性が図られることと思います。

(杉浦 順)


参考文献:

1)本コラム2024年1月19日付「米国TSCAのDecaBDE規制改正案」


2)改正案


3)改正案のニュースリリース


4)本コラム2021年6月18日付「TSCA PBT PIP(3:1)の動向」


5)本コラム2021年9月27日「米国EPA  TSCAによるPIP(3:1)規制適用延期」 


6)本コラム2021年10月29日「Phenol, Isopropylated Phosphate (3:1)の遵守日は2024年10月31日まで延長」


7)本コラム2021年11月19日「米国EPA TSCAによるPIP(3:1)規制適用を再延期提案」


8)TSCA sec.2601, sec.2605


9)Regulation of Persistent, Bioaccumulative, and Toxic Chemicals Under TSCA Section 6(h); Phenol, Isopropylated Phosphate (3:1); Further Compliance Date Extension


10)40 CFR 751.407

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